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ステークホルダー
ダイアログ

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2017年3月、CSRの各分野における有識者の方々をお招きし、千代田化工建設の従業員を交えたステークホルダーダイアログを開催しました。
千代田化工建設では2006年に5つのCSR Visionを策定しました。そこから10年が経過し、外部環境も大きく変化するなか、改めて本業を通じたCSRの取り組みについて見直しを始めています。今回のダイアログでは、社会におけるエンジ会社の企業像、昨今のCSRの潮流、経営陣をはじめとする従業員への理解浸透策、そして千代田化工建設への期待など、さまざまな意見が交わされました。

2017年度ステークホルダーダイアログ

出席者
損害保険ジャパン日本興亜(株) CSR室 シニアアドバイザー関 正雄氏
損害保険ジャパン
日本興亜(株)
CSR室 シニアアドバイザー
関 正雄氏
(株)大和総研 調査本部主席研究員 河口 真理子氏
(株)大和総研
調査本部主席研究員
河口 真理子氏
獨協大学 経済学部教授 高安 健一氏
獨協大学
経済学部教授
高安 健一氏
明治学院大学 教授 原田 勝広氏
明治学院大学
教授
原田 勝広氏
千代田化工建設
和田 前田 中村
企画管理本部 本部長 和田 秀一
リスクマネジメント本部 本部長 前田 康之
業務本部 調達・建設業務ユニット GM 中村 薫

エンジニアリング事業と千代田化工建設のイメージ

まずは、エンジニアリング業界や当社に対するイメージをお聞かせください。

河口

エンジニアリング業界の企業はグローバル展開が根付いているためか、非常にフラットでオープンなイメージがあります。日本的ヒエラルキーの形式ばった組織の常識にとらわれていない、と言うのでしょうか。たとえば業界団体のイベントでも、年次や経験を問わず誰もが対等に運営業務に携わっている様子は、ある種の感動を覚えるほどでした。
また、エンジニアリング企業からは、グローバルで活躍できる人材も多数輩出されていると思います。その裏返しとも言えますが、視線が海外に向いているため国内向けのアピールが少ないのはもったいないように感じます。

確かに、直接的に商品やサービスを手にする事業ではないので、日本の一般消費者にとっては事業をイメージしづらい面はあるかもしれません。一方で、エンジニアリング業界を知っている立場からすれば“千代田化工建設=グローバルが強い”というイメージがあります。特に、高い技術力を生かして社会に貢献する、社会を変えていくようなインパクトを与えうる企業というのが第一印象でした。

ステークホルダーダイアログの様子
高安

私は、千代田化工建設が掲げる「エネルギーと環境の調和」という企業理念に感銘を受けました。一見すると相反するこの2つの要素が、なぜ整合性を持って調和できるのか。その意義を明文化し、理解を深めるだけでも社会的意義が大きいのではないかと思います。
また、「エネルギーと環境の調和」は、SDGsのコアでもあります。それを実現するための技術や人材を備えている千代田化工建設は、他企業よりもCSRへの期待が高く、言い換えれば責任も重い。だからこそ、企業理念などをはじめCSRにおいては「千代田化工建設は」「私たち従業員は」と、自らを主語にした積極的なアピールをすべきではないでしょうか。例えば、2014年のCSR報告書にパプアニューギニアにLNGプラントを建設された際、現地で2,500人もの人材を雇用して育成したという記載がありますが、私の専門の開発経済学では、ODAなどの協力なしでこれを成し遂げることはすごいことであり、その意義を理解し、積極的に発信していくべきだと思います。

原田

高安先生のおっしゃる通り、エンジニアリングは社会的責任が大きい業界です。そもそも、エンジニアリングは19世紀のイギリスにおいて、農工商に次ぐ第4の柱に位置付けられるほど重要な産業でした。現在でも、土木、建築、機械、設備、電気と幅広い分野の計画から調達、工事までを一元管理するという領域の広い事業です。それだけに社会的責任が大きくなる半面、果たすべき役割や期待も大きいのだと理解していただきたいですね。
SDGsが制定され、政府、企業、NGOが共通言語を持って同じ目標に進んでいけるようになりました。なかでも経済社会問題においてビジネスセクターが担う役割は非常に大きい。特に千代田化工建設は非常に大きなバリューチェーンを持たれているので、その事業領域はSDGsの17項目すべてに当てはまるのではないでしょうか。取り組み方は考察の余地がありますが、千代田化工建設の事業はCSRと非常に密接に関連していると言えます。

原田氏・高安氏
前田

皆さんのお話にありました通り、CSRとは決して義務や“やらされ感”のもとに行うものではなく、期待と捉えるのが大切なのだろうと思います。レスポンス・アビリティという単語にあるように、対応力があればさまざまなことに対応できる可能性を秘めているのだと改めて感じました。
私はリスクマネジメント本部長を務めておりますが、リスクに対する発想もCSRに通ずる部分があるように思います。リスクは単なる悪いもの、回避すべきものではなく、チャンスと表裏一体になっています。リスクをマネジメントする=チャンスを生かすと同義と考え、前向きかつ積極的に向き合っていきたいと考えています。

エンジニアリング事業と千代変化し続ける外部環境に対応する際のリスクとオポチュニティ

昨今ではSDGsの話題も多く耳にするようになりましたが、CSRや各企業を取り巻く現在の外部環境、そこに潜むリスクとはどのようなものがあるのでしょうか。

2015年に採択されたSDGsやパリ協定は、非常に大きな節目と言えます。これらに基づき、2030年、2050年と長期視点で社会を大きく変えていくきっかけになるだろうと見込まれます。
リスクに関していえば、気候関連情報は非財務情報ではなく財務情報であると捉えられるようになってきました。また、世界レベルで低炭素社会、脱炭素社会への移行も叫ばれています。こうした状況下において、企業活動におけるリスクとオポチュニティは何なのか。まずはそれを把握したうえで、企業として進むべきシナリオを開示していくべきです。過去志向から、未来志向の考え方へ変化するなかで、社会の期待に応えて企業価値を高めるようなシナリオが重要度を増してくるはずです。

関氏・河口氏
河口

確かに、今や世界では脱炭素社会実現に向けた取り組みは当然との認識になっています。たとえば、投資家が石炭事業の企業への投資を見合わせたり、インドでも2018年から5年間で火力発電をゼロにすると明言したりもしています。そうした潮流に対して日本は“鎖国状態”で、政府や官庁も低炭素というレベルにとどまっていて非常に遅れているし感覚がずれている。この実情は、ビジネスにおいても非常に大きなリスクだと感じます。
ESG投資に関しても同様、日本は世界の流れから10年もの遅れをとっていました。欧米では長期運用を前提とした投資のために、目先の財務ではなく、5年後10年後を見据えた活動が明確な企業に投資されます。日本ではその逆で、社会貢献≒コストとの発想がなおも根強く、結果的に世界の認識との間に大きな溝が生まれてしまいました。
2014年にSRIコード 、2015年にコーポレートガバナンス・コードが制定され、ようやく投資家と企業が長期的な価値について対話を行うためのプラットフォームが整いました。現在はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資に積極的な姿勢を見せるようになり、CSRはもとよりIRに関しても状況は様変わりしつつあります。この変化を見定め、追いついていけるか。その対応力によっては、現在の潮流が企業にとってのリスクにもオポチュニティにもなると思います。

和田

お二人から脱炭素社会というキーワードが出ましたが、確かに日本企業はカーボンコストに目が向いていない印象が強いです。海外企業は、将来的な負荷を見越したうえで投資財産として注視しています。その差がいずれは大きなリスクとなりうるのではないかと感じます。やはりエネルギー利用などの分野においても、世界の潮流は変化しているのでしょうか?

その通りだと思います。たとえば、サウジアラビアは国家の声明として「産油国から産エネルギー国に変わっていく。既に舵は切っている」と明言しました。社会が大きく変わろうとしていくなかで、企業が提供するソリューションには非常に注目が高まっています。企業もその移行にどんなリスクがあるのか、しっかりと考えねばなりません。一方で、「エネルギーと環境の調和」を掲げ、省エネや低炭素化に貢献できる千代田化工建設にとっては、大きなオポチュニティとなるだろうと考えられます。

和田

やはりSDGsの17項目について、通常業務においても強く意識して自発的に取り組むことが大切になりますね。真摯に向き合い、深く考えれば、きっと次の一手となるアイデアも出てくるのではないかと思います。

原田

私は、企業が発想の方向性を転換しなければならない時期に来ていると感じています。社会の要請に対して自社の事業や取り組みを正当化して自己満足するインサイドアウトの時代は終わりを告げました。むしろ、世界に目を向けてどんな社会課題があるのか把握し、それに対して自社の技術やノウハウを活かしてこんなイノベーションを起こして課題解決できる…というアウトサイドインへ。今こそ、こうした発想の逆転がないと技術も生かせないと思います。
関さん、河口さんのおっしゃられることはグローバルスタンダードですが、日本はその潮流に追いつけていないのが現状です。

河口

そうですね。確かに「本業にCSRやSDGsの発想を織り込まれているので、それで十分に社会貢献を果たしている」と考える企業は少なくありません。しかし、だとすればなぜ社会課題はなくならないのでしょうか。それは、一面的な視点での取り組みに終わってしまっているからです。たとえば、素晴らしい商品によってある社会問題を解決できたとしても、その裏に環境破壊や人権侵害があったら手放しでは喜べないでしょう。あらゆる取り組みは、必ず多角的な目線でネガティブ要因への影響もを配慮する必要があります。

前田

今のご意見は、非常に痛切に響きました。当社は受注産業なので、顧客の要求に対し真摯な姿勢で応えようとする風土や姿勢が根付いています。一方で、顧客が要求してこない面についてはどうしても見落としがちです。受注型だからこそあえて造注型の発想も取り入れることで、多角的な視野を持てるようになると思いました。それらのコンビネーションをバランス良く保つことで、リスクをチャンスと捉える意識が育っていくのかもしれません。

千代田グループ参加者

また、最近はビジネスのベースラインとして改めて「人権尊重」が重要視されるようになりつつあります。日本政府も2016年11月にビジネスと人権に関するナショナルアクションプラン(NAP)を策定すると宣言しました。企業活動においても、いかにして人権尊重の責任を果たすかを明示するだけでなく、デューディリジェンスが重要です。人権尊重はあらゆる事象に横串を刺す概念として、ますます重要視されていくようになると思います。

経営層の理解を深めるとともに実践する社内への浸透も重要な鍵

世界の潮流や外部環境などを幅広くお話しいただきました。ここからはさらに一段掘り下げ、実際の企業活動とCSRやSDGsを結び付けていくために必要なことをお聞かせください。

高安

日頃から大学で学生らと接していると、実は若い世代の方がCSRや社会貢献に対する意識が高く、行動力もあるのではないかと感じています。企業におけるCSRの実践には、従業員一人ひとりのマインドが不可欠です。企業としてもその重要性を理解し、しっかりと育てていかなければ、外部の変化から取り残されて変革に追いつけなくなるのではないかと思います。

高安先生のおっしゃる通り、従業員への理解浸透は非常に重要な取り組みです。SDGsの17項目は、おそらくどんな企業の事業にも当てはまると思われます。169個のターゲットを具体的に掘り下げていく過程でこそ新たなビジネスチャンスが見えてくるはずです。当然ながらその指揮を執るのは経営陣ですが、残念なことに日本企業の経営陣は欧米に対してSDGsに対する理解度が非常に低い。まずは、経営陣のCSRやSDGsに対する理解がビジネスチャンスと直結していると気づくことが、第一歩になると思います。
そのうえで、カギを握るのは経営陣と現場に立つ従業員をつなぐミドルマネジメント。彼らのCSRやSDGsに対する理解浸透に取り組めば、全社的な効果が期待できるのではないでしょうか。

中村

今お話に出た世代による意識の違い、経営陣の理解度というのは、企業におけるCSR活動において重要なポイントとなりますね。やはり、経営陣の理解から個々の施策に落とし込んでいくことが大切なのだと、改めて実感しました。また、従業員一人ひとりが納得して業務とSDGsを結び付けるには、KPIも必要かもしれません。

河口

CSRというと担当部署が主体となって行う活動と認識されがちですが、全社的な理解をしっかりと深めることが大切だと思います。もちろん、担当部署は先導役として取り組むことになりますが、全社を巻き込んでいく働きかけも必要となるでしょう。たとえば社内向けニューズレターなど、理解浸透ツールの活用も効果的です。多くの現地雇用を創出したパプアニューギニアのプロジェクトなどは、幅広く発信するべき非常に素晴らしい事例です。現地の状況を継続的に追いかけ、その後調査し、フィードバックすることでモチベーションにつながります。

原田

メディアを活用して取り上げてもらうのも効果的だと思います。これまで、特に日本では企業のCSRに関する情報が少なく、注目度が高いとは言えない状況です。だからこそ、企業側からもさまざまな情報を積極発信することで、メディアを巻き込みながら活動のアピールにつなげていけるのではないでしょうか。

高安

社内での動きとしては、現場と本部が双方向で情報を共有し、連携する仕組みも必要にでしょう。お互いにどんな情報を持っていて、それについてどう考えているのかを把握できなければ、全社目線でCSRやビジネスを考えることはできませんから。

河口

確かに、現場にいるから理解が深いとは限りませんからね。たとえば水不足、人権尊重、難民問題など、日本に目を向けているとなかなかリアリティを持って実感できない問題はたくさんあります。それは、たとえ現地にいても同じこと。日本というフィルターを通さず、今、世界で起こっている事象を真っ向から見つめる姿勢を持たなければなりません。そのうえで、現場の状況を吸い上げて本部や全社へ発信できる人材育成が重要になってくると思います。

外部参加者
中村

CSRは全社的な、いわば全員にとっての課題であり、関心を持つ層が固定化してしまうのが最もリスキーな状況なのかもしれません。世の中が、企業の取り組みやその価値をしっかりと発信すべきだという風潮にシフトしている以上、いわばCSRからCSV(Creating Shared Value)へと意識改革し、企業価値を高めながらアピールしていかねばならないと思います。
そうした取り組みを推進する上で、最も効果的かつ近道となる原動力はどのようなものだとお考えですか?

Chiyoda Group Participants
河口

第一歩は、やはり“CSRは一部の部署で実践するもの”という発想から脱却することでしょうか。発想さえ転換できれば、日々のビジネスシーンにもCSRを実践しアピールするチャンスはたくさんあるはずです。たとえば、プラント建設の商談の場において、自社と相手企業のCSR担当を巻き込んで省エネ実現の指標を提示する。つまり、千代田化工建設の事業がサステナビリティの視点においてどのような付加価値があるのかを提案する力が、部署や企業の垣根を超えてお互いの課題解決にもつながります。

ストーリー性のある“攻めのCSR”が未来社会への貢献へとつながる

これより、当社ではCSRを見直し、実践していくプロセスを予定しています。千代田化工建設への期待をぜひお聞かせください。

高安

CSRは外部環境の変化に伴い、求められることや取り組みも進化させていくべきものです。改めてCSRを見直そうという姿勢は、非常に的を射ていると感じます。これから取り組まれるとのことですから、ターゲットイヤーはSDGsと揃えた2030年に定めて再構築いただければよいのではないでしょうか。そして、従業員一人ひとりに行動変容を促すために大切なことは、ストーリー性です。単なる活動のアピールではなく、千代田化工建設の企業活動を通じて社会がどう変わるのか、自分たちの生活にどんな影響があるのか、具体的にストーリー性のある展開をぜひ打ち出してください。人間は、興味があって楽しいことは積極的に打ち込めるものです。夢中になれる魅力あるCSRの取り組みを実践し、アピールしていっていただきたいですね。

現時点でも、千代田化工建設はCSRにおいてやるべきことをきっちりと実施されています。但し、真剣かつまじめに取り組まれている一方、やや“守り”に入っている印象は否めません。だからこそ、この見直しのタイミングを活かして“攻めのCSR”に転じていただきたい。高安先生もおっしゃる通り、ストーリー展開を持って訴えていってほしいと思います。

原田

CSR、CSVどちらの概念にも共通しますが、企業とは社会の役に立つからこそ存在しえる組織体。ビジネスとは本質的に“社会にとって良いこと”であり、CSRについての考え方も、結局は本業を通じて何ができるかという原点に立ち返ったように思います。その真価が問われるのは、これからの取り組みの結果次第。既にお話も出ている通り、大切なことは従業員一人ひとりがCSRの意義、企業活動を通じて目指す未来を理解できるよう、クリアに明示することです。社会の課題を解決した結果として利益を生み出すのがビジネスだ、という発想を全体で共有していってほしいと思います。
今後、再生エネルギーの活用がさらに活発化し、ゆくゆくは水素社会の実現などを目指していくうえで、千代田化工建設の技術やノウハウはかなり貢献できるはずです。それだけに、社会からの期待も大きくなるでしょう。未来の社会のために何ができるのか、ステークホルダーにとって役立つこととは何か…と突き詰めて考え抜くことで、ビジネスチャンスもますます広がっていくだろうと思います。

和田

本日は多岐にわたるご意見を頂戴し、本当にありがとうございます。頂戴したご意見を参考に、改めて当社のCSRを見直し、新たなる一歩を考えていきたいと思います。CSRは、会議室にいる人間だけが深く理解していても意味がありません。全社を巻き込み、従業員一人ひとりが正しく理解を深め、実際に行動を起こす仲間を増やしていけるようなアクションを起こしていきたいと思います。

集合写真

本日はありがとうございました。