Chiyoda DX Initiativeが導く自己変革と共創 ―現場×デジタル×AIで切り拓く新領域―【前編】

2026年3月

キーワード:

DX

AI

化学工学分野の知見

高度解析技術

デジタル人財

2025年5月、当社は2027年度までの中期計画「経営計画2025(自己変革~かなえたい未来へ~)」を発表。事業・技術の開発から操業まで、より広範囲に顧客に伴走し、従来のEPC(設計・調達・建設)コントラクターから進化して「事業共創のパートナー」を目指すことを掲げました。
この自己変革のエンジンとして、同規模の人員でより広範囲に確実に対応していくための重要な役割を担うのが「Chiyoda DX Initiative」(全社DX)です。Chiyoda DX Initiativeは、現場やバックオフィスの仕事をデータでつなぎ、意思決定を速く・確かにする取り組みです。その結果、従来のEPCに加えて、操業支援や社会実装(カーボンニュートラル/ライフサイエンス等)まで“伴走”できる会社へ進化しようとしています。本記事では、その全体像と、技術×AIでどんな未来が開けるのかを3名のキーパーソンに聞きました。

CHIYODA CORPORATION

CDO室部長 兼O&M-Xソリューション事業部
plantOS企画開発セクションリーダー

古市 和也

CDO室事務局長 兼 デジタルEPC・AWP推進部
プロジェクトIMセクション

今野 直人

ITマネジメント部
コーポレートICTセクションリーダー代行

新長 英年

社内の自己変革を起点に、業界(インダストリ)の変革支援へ広げる

──Chiyoda DX Initiativeの全体像を教えてください。

古市

Chiyoda DX Initiativeのビジョンは、『DXによる「自社の変革」、「インダストリの変革支援」を両輪で推進し、社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する』ことです。これまでの全社DXの取り組みを改めて体系化したのがChiyoda DX Initiativeであり、その中核に位置付けられるのが、自社変革の基盤の役割を果たす「全社業務遂行プラットフォーム」です。

各プロジェクトの遂行からバックオフィスの全社管理、社外パートナーとの情報共有までも包含し、常に最新化・構造化された情報を全社で共有、「見える化」します。これにより、自社の変革を実現し、経営管理・ガバナンスやリスク管理の高度化、社員一人ひとりのパフォーマンス最大化を図ります。さらに、全社業務遂行プラットフォームに集積されたデータと知見を活かし、3つの共創領域「EPC事業改革」「操業支援」「社会実装」とAI基幹技術「AIプロセスシミュレータ」を通じて、「インダストリの変革支援」を推進し、社会価値の共創につなげます。

社長メッセージ

CDO兼CHROメッセージ

コンセプトムービー

──「インダストリの変革支援」は、どのように進めるのですか。

古市

既存領域である「EPC事業改革」と、「経営計画2025」で拡充対象領域に掲げた「操業支援」「社会実装」の三つの戦略に沿っています。
「EPC事業改革」では、プラントの設計(E)・調達(P)・建設(C)をAI/デジタルで完遂する「デジタルEPCプラットフォーム」により、「ビジネスアジリティ」※1向上を目指します。「操業支援」では、プラントの運転・保守・生産強化をDX×エンジニアリング力×フィジカルで支援する「plantOS®」※2により、プラントオーナーの「ビジネスセーフティ」※3の実現に貢献します。「社会実装」では、ライフサイエンスやカーボンニュートラル等の新分野をDXで支援する「スケールアップデジタルツイン」により、「ビジネスイノベーション」を創出します。さらに、操業支援・社会実装の推進においては、当社のデータアセットを活用し、化学工学領域に特化して独自開発した「AIプロセスシミュレータ」が推進エンジンとして機能します。

  • 1:市場や顧客のニーズ、技術の変化など、外部環境の変化に迅速かつ柔軟に対応することで、競争力を維持し、持続的な成長を可能にすること。
  • 2:プラントの運転・保全を支えるデジタル基盤/ソリューション群。
  • 3:環境変化、社会変化に適応し、ビジネスを維持・継続できる、安心安全な企業活動のこと。

自己変革は、ボトムアップ(現場の改善)とトップダウン(会社基盤づくり)の両輪で進める

──DXを推進するためには、各現場に変革をリードできる人財がいるかどうかが鍵を握るといわれます。人財育成に関する取り組み状況も教えてください。

新長

日本ディープラーニング協会(JDLA)が創設・運営するE資格※4を取得したAI人財が社内に20名いる他、各部で選ばれ、社内研修などで力を付けてきたDXコア人財も多数育っています。DXコア人財は、一般の現場社員が業務改善活動に取り組む「市民開発」の推進役も担っています。

  • 4:AIエンジニア向けの資格。ディープラーニング(深層学習)の深い知識とスキルを有していることを証明する。

──ボトムアップで進める市民開発の活動内容はどのようなものですか。全社員が参加できるのでしょうか。

新長

市民開発は、IT専門職ではない現場の社員(非IT人財)が、ノーコード・ローコードツール※5を活用して自ら業務アプリや自動化ツールを開発・改善する取り組みです。誰でも参加可能で、使いやすい開発アプリの提供に加え、相談会も毎週開催しています。社内コミュニケーションツールでも随時質問ができ、ユーザー同士の助け合いが進んでいます。すでに100名以上の社員が現場のDXに挑み、累計の業務削減時間は2万時間を超えました。一方で、市民開発によって現場単位で生まれるデータや仕組みを、部門やプロジェクト横断で有機的につなぎ、全社活用へと引き上げるには、個々の取り組みだけでは限界があります。そこで当社は、現場発の改善を点で終わらせず全社の力に活かす基盤として、「全社業務遂行プラットフォーム」や「デジタルEPCプラットフォーム」といったトップダウン施策も並行して取り組んでいます。

  • 5:ノーコードツールは、プログラミングを一切必要とせず、視覚的なインターフェースを使ってアプリケーションを構築できるツールのこと。ローコードツールは、最低限のコーディング(プログラミングの元ネタであるソースコードを書く作業)を必要とするツールのこと。

──具体的な取り組みについて伺います。まず「自社の変革」の基盤となるトップダウンで進める「全社業務遂行プラットフォーム」とはどのようなものでしょうか。構築はどこまで進んでいますか。

新長

「全社業務遂行プラットフォーム」は、大きくプロジェクト側とコーポレート側の2つのシステムで構成されます。プロジェクト側では、当社の主力事業であるEPC各プロジェクトの円滑な遂行に向け、全体的なスケジュール管理、図面管理、機器や資材の発注管理など、多様なツールをすでに活用しています。今後は、これらを相互に有機連携させ情報の流通をスムーズにし、プロジェクト業務の一層の効率化を図ります。

一方、プロジェクトの遂行を支えるコーポレート側でも、リソースマネジメントシステムやタレントマネジメントシステム、より経営に近いところではERP※6といったシステムが稼働しており、プロジェクト側システムと必要データを相互共有すべき関係にあります。最終的には、両側の各種システム間でデータベースを相互連携させる「全社業務遂行プラットフォーム」を実現します。現在、必要なデータ接続に向けた準備を進めています。
また、「デジタルEPCプラットフォーム」は、プロジェクトに関わるお客さまや社外パートナーも含めた活用を見据えており、セキュリティ強化が重要です。国際規格に準拠した情報セキュリティフレームワークを活用し、定期的な第三者評価を通じて対策を体系的に整備・強化する体制も整えています。

ボトムアップとトップダウンの両輪を回し、DXの効果を最大限に引き出していきます。

  • 6:Enterprise Resource Planningの略。企業活動の基幹を成す「会計」「人事」「生産」「物流」「販売」などのデータを一元管理し、業務プロセスを効率化・統合するシステム。

EPC事業改革では、社外パートナーも巻き込み、プロジェクト運営を“同じ情報”で回す

──「インダストリの変革支援」についても、詳しく教えてください。「EPC事業改革」は、「デジタルEPCプラットフォーム」の活用を社外に広げるイメージでしょうか。

今野

その通りです。発注・工程管理から、輸送・入庫管理までのデータを扱う「サプライチェーンコラボレーションプラットフォーム(Supply Chain Collaboration Platform:SCCP)」のように、社外パートナーと同一情報でサプライチェーンを管理する仕組みで、すでに社外パートナーを巻き込んだ運用が始まっています。

例えば機器の調達プロセスでは、当社購買からの発注後、メーカーより機器図面が提出され、当社エンジニアがレビュー・承認します。承認後、メーカーが製作を開始し、要所で当社が検査を実施、品質管理担当も立ち会います。完成後は性能検査と梱包を経て、当社輸送部門がプラントの現場へ輸送します。海外現場の場合は船舶輸送となるため、事前の船積みスペース確保が必要です。現場到着のタイミングは、当社工事部門と調整します。

従来はこのプロセスをメール等で個別に情報確認していたため、最新状況の把握に時間を要し、情報の鮮度や正確性にもばらつきがありました。SCCP導入後は、機器メーカーや船会社を含む関係者全員が同一データを参照しながらやり取りでき、認識の齟齬を減らし、迅速で確度の高い判断・対応が可能になりました。

また、プロジェクトの視点では、ジョイントベンチャーパートナーや主要サブコントラクターとも、進捗・変更・到着見込みなど“プロジェクト運営に効く情報”を同一データ基準で共有できることが重要です。関係者ごとに必要情報が揃った状態を整えることで、工程調整や変更対応の“確認待ち”による滞留を防ぎ、プロジェクト全体の意思決定スピードと確度を底上げします。

──業務効率化とプロジェクト管理の高度化を同時に実現する取り組みですね。

今野

情報が全員に「見える化」されることで、例えば設計変更などが発生しても迅速に対応できます。私たちはこれを「ビジネスアジリティ」と呼びます。

さらに、過去情報を適切に活用することで、ビジネスアジリティは一段と高度化します。例えば、プロジェクトマネジメントシステムで、「類似の設計変更時に必要な対応や抜けやすい点」「お客さま対応での注意点」などのデータを呼び出すことで、対応の抜け漏れを防げます。従来はベテランエンジニアの勘と経験に頼っていた部分をデジタルの力で”再現可能な形”にしていくイメージです。

千代田の知見と強みを活かし、DXで事業を次のステージへ