新たな事業領域(操業支援/社会実装)でも、DXが事業づくりの鍵に
──「操業支援」は、EPCの後、実際にプラントの運用がスタートしたフェーズでの支援ですね。ここでは、どのように当社のDXが活かされるのでしょうか。
今野
操業では、まず設備の信頼性向上を軸に安全・安定運転を確保し、その上で保全の高度化や運転の効率化を追求します。実現には、運転情報と設備保全情報、人の知見を有機的に連携させ、デジタルでつなぎ循環させる基盤が重要です。加えて、人の知見の面では、運転情報や設備保全情報を正しく理解・分析するため、設計知見を含む業界横断の実績に基づく理解が不可欠です。当社およびグループ会社の千代田エクスワンエンジニアリング(Chiyoda X-ONE Engineering:CXO)は、プラント引き渡し後の定期修理工事(定修)も担い、過去のプラント設計と引き渡し後の知見を蓄積しています。
また、トラブル時の原因究明や解析・診断等を行う専門家集団・ChAS(Chiyoda Advanced Solutions)もいます。これらのデータベースとノウハウを活用し、各種プラントの安全かつ効率的な操業をサポートするソリューション群を開発し、「plantOS®」として提供しています。プラントオーナーに寄り添い、安心・安全な事業活動を支える取り組みを当社では「ビジネスセーフティ」と呼んでいます。plantOS®上で設備が「語り」、過去の意思決定が「残り」、次の世代のエンジニアが「判断できる」環境を支援します。
plantOS®のソリューション群の中でも、導入効果の高い実績として「LNG Plant AI Optimizer(LAIO)」があります。
LAIOは、夏場と冬場で冷却効率が大きく変わるLNGプラントの特性を踏まえ、設計関連データと実天候データを組み合わせて、安全性を損なわない範囲で年間1~5%の生産効率向上を実現するAIアプリケーションです。これにより、数千~数億円規模の収益効果が確認できました。
また海外においても操業上の課題は概ね共通であることを確認しており、今後はNon-EPC領域の一つとして新しいビジネス形態で貢献範囲を拡大し、「新しい千代田」の創造につなげていきます。
──プラント設計を知り尽くした当社ならではのソリューションですね。
古市
グループ会社のCXOとのタッグにより、ChASが培ってきた解析・診断技術にデジタルとフィジカルを融合したO&M(運転・保守)のトータルソリューションを提供できることも当社の強みです。同様に、プラントの運転情報とこれまでの保全データ、設計データをエンジニアとお客さまが確認することで、定修における検査・補修項目やスケジュールの最適化が可能になります。デジタルとフィジカルのハイブリッドによる価値提供です。
──もう一方の新領域である「社会実装」は、カーボンニュートラルやライフサイエンスなど、イノベーティブなビジネスに挑むお客さまに立ち上げから伴走する事業でしたね。当社にとって新規開拓中の事業領域ですが、DXで貢献できるのでしょうか。
古市
お客さまは、研究段階のシーズを「早く」「正確に」「経済性がある」形で社会実装することに課題を抱えています。当社は長年、石油や石油化学、LNGなどで、装置の「スケールアップ」や「連続プロセス化」に貢献し、近年は、操業支援で培ったAIプロセスシミュレータが、この分野でも効果を発揮しています。
プラント設計では、実物のない段階でサイジングやリスク評価が必要なため、流体挙動まで含めた模擬が不可欠です。従来はベテランエンジニアが化学工学の知識をベースに、限られたパターン構築により検討していました。その後、シミュレーション技術が適用され始め、最近はそこにAIを加えたAIプロセスシミュレータを利用することで、大量のパターンを短時間かつ高いレベルでつくれるようになりました。
このAIプロセスシミュレータを応用した「培養デジタルツイン」では、バイオ医薬品などの細胞培養プロセスをバーチャルに構築。統計的アプローチと物理モデル的アプローチを併用し、CFD※7解析相当のシミュレーションを高速に実行することで、従来難しかった培養反応過程の検討を前倒しし、新薬の社会実装を早期から伴走しています。
スケールアップやデジタルツインの技術は、将来的には宇宙実験なども含む多様な「ビジネスイノベーション」への伴走にも応用できると考えています。
- 7:Computational Fluid Dynamicsの略。コンピューターを用い、数値計算によって流体の動きや熱の伝わり方をシミュレーションし、可視化・予測する手法。
化学工学分野の知見×AIを組み合わせ、EPC事業改革・操業支援・社会実装を加速
──DX推進に当たって、石油・石油化学、LNG分野で培ってきたシミュレーションの知見が強みになっていくのですね。
古市
そうですね。詳細分析が必要でリアルタイム計測が難しかった指標についても、AIを活用することで予測を含め瞬時に可視化できるようになった点が大きな前進です。培養デジタルツインでは、分析計による測定に頼らずとも同水準の推測が可能となり、シミュレーションが運転現場で使えるレベルに到達しました。
例えば自律運転という同じゴールで車とプラントを比較すると、車は多数センサーで外界を即時把握できますが、プラントは金属の塊で視認性が悪く、センサーだけでは全容の「見える化」に至りません。よって限られた観測値から、液体や気体、熱量、エネルギーバランス等を統合的に推定するシミュレーションで現在と将来の全体像を描き、その上で最適化に進む必要があります。当社は、この推定の核となる各種シミュレーション技術を磨き、AIを取り込んだ高速・高精度なAIプロセスシミュレータを実現しました。プラント自律化に向けた重要なステップとしての貢献が見込めます。
当社では、世界でも先駆けて大型計算機を使った大規模シミュレーションや3Dモデルなどのデジタル技術を、プラント設計、研究開発、設備診断コンサルティングに適用し取り組んできました。解析結果にとどまらず、問題の解決策・改善策まで含む総合的なソリューションも提供しています。各専門領域を究め、学会のアドバイザーなどを務めて、日本の解析・診断技術の発展を支えてきた人財も少なくありません。
高いレベルの技術知見を持っていることに加え、シミュレーションの結果を受けて設計したさまざまなプラントがすでに数十年の稼働実績を積み上げていることも当社の強みです。これにAI・デジタル技術を活用できるメンバーが育ってきています。各分野の専門知識×AI技術×安全稼働してきた多くの設計実績データが揃っていることで可能性が大きく広がってきています。さらに、プラント引き渡し後の操業支援で得られた知見も踏まえ、シミュレーション自体の精度も一層向上しており、当社のシミュレーションは社外に対しても信頼に足るレベルになっています。
「技術の千代田」の強みを、誰もが使える形にして次の成長へつなぐ
──最後に、Chiyoda DX Initiativeの推進に懸ける皆さんの思いをお聞かせください。
古市
Chiyoda DX Initiativeの取り組みは、すでに数年かけて進めてきたものが大半です。さらに当社の強みの中軸には、長年積み上げてきたエンジニアリングの知見があります。社外の人に当社のDXの話をすると、よく「そんなことまでやっていたんですか」とか「千代田さんのケイパビリティがあれば、いろいろな可能性を追求できそうですね」と言っていただきます。探求心の強い人が多い会社ですから、まさに今後のポテンシャルに期待していただきたいです。CDO室はDX人財育成と情宣を推進していく役割なので、全社の活動を加速させるとともに、社外への発信にも一層注力していきます。
今野
DXコア人財の研修などでさまざまな部署のメンバーと接するたびに、その課題理解のスピードに驚かされます。2023年度に導入した社内向けチャットAIツールなども活用が進み、全社的なDXの機運は高まっています。定型業務をどんどんデジタル化し、より付加価値の高い仕事にシフトしてもらえるよう、引き続き環境整備に努めます。
新長
コーポレートのDXを進める立場として、各プロジェクトの遂行をしっかり下支えできる基盤を整えたいと考えています。また、市民開発の推進に関しては、AIが急速に進化するにつれ、今後ますます「こんなことができたら」というアイデアを実際に形にできる可能性が高まっていくでしょう。多くのアイデアの中で、各自が業務貢献度の高いものを見極めるとともに、適切なAIツールを選択できるよう、支援していきます。
