水素でグリーンエネルギーの未来を拓く【後編】

2023年12月

キーワード:

SPERA水素™

国際間水素サプライチェーン

大規模水電解システム

世界各国で脱炭素化への動きが加速するなか、多くの企業が新たなビジネスモデルの構築や成長機会の模索に注力しています。当社グループは、パーパス「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」のもと、脱炭素社会の実現に貢献すべく取り組み、なかでも水素エネルギーの実用化に注力しています。
当社グループの水素事業のビジョンや目指す姿、どのように水素社会実現を牽引していくのかについて、3名の担当者による座談会を通じてお伝えします。

CHIYODA CORPORATION

フロンティアビジネス本部
水素事業部長

井上 泰宏

フロンティアビジネス本部
技術開発部長

森上 賢

エネルギープロジェクト
事業本部

伊藤 健一

ガス・石油・LNG──70年以上にわたって蓄積してきたエネルギー技術を安全な水素インフラに活かす

──水素ビジネスにおける当社グループの強みは何だと考えますか。

伊藤

創業以来70年以上にわたり、石油、ガス・LNG、再生可能エネルギーと、さまざまなエネルギーを扱うなかで蓄積された知見です。例えば、石油精製所で大量の水素を扱ってきた経験があるので、ハンドリングはお手のもの。一例ですが、水素とCO₂を原料とした合成燃料を生産するプラントのEPC(設計・調達・建設)業務を遂行しています。この生産技術は、決して新しいものでなく、我々がこれまでに培ってきた技術を大いに活用できるものです。

井上

これまでに、クリーン水素を使うというニーズがなかっただけで、技術としては、水素の製造や利用のノウハウがあり、取り組みではそれを応用しています。また、水素もアンモニアも天然ガスも、個別に特性があり、安全管理の仕方も異なりますが、当社グループは長年の経験を活かして、それぞれに見合った設備などをサプライチェーン全体で提案できます。

森上

安全管理の面で付け加えると、例えば、天然ガスは無色、透明、無臭のため、万が一漏れた時に気付けるように、わざと臭いを付けるといった工程があります。水素の場合は、第一に漏れを防ぐために、水素を貯蔵するボンベ等については高い密閉性を確保しています。また、万が一漏れ出した場合も、水素が一カ所にとどまらないようにするため、水素を取り扱う施設には排気孔や排気ファンなどを設置し、素早く大気中に逃げるように工夫しています。積み上げてきたノウハウが、安全なインフラ構築に役立っているんです。

2030年のマーケット拡大を目指して、複数のプロジェクトが進行

──水素ビジネスに関する今後の展望を教えてください。

井上

水素については、これから開発される技術や機器がたくさんあり、いますぐサプライチェーンを実現するのは、インフラ整備も含めてハードルが高いです。水素を新しい用途で利用するための法整備も必要になるなど、まだまだ課題が山積みです。

一方で、将来を見据えた動きもあります。2023年に発表された日本政府の「水素基本戦略」で、方向性や規模感についての数字目標が明確になりました。そこには、「2030年に最大300万トン/年、2050年に2,000万トン/年程度の水素等導入目標に加え、新たに1,200万トン/年程度(アンモニアを含む)の目標を掲げる」と記載されています。そこで当社グループでは、今後、国内の水素サプライチェーンも重要なターゲットと位置付け、潜在顧客やパートナー各社との協議や検討を進めるとともに、コスト低減や高効率化に向けた技術開発・改良への取り組みを加速していきます。

また、我々の強みであるLOHC-MCHシステム(SPERA水素システム)の裾野拡大に引き続きチャレンジしていきます。まずは2020年代に具体的な商用導入の実績をつくり、2030年以降の水素マーケットの拡大に向けて当社グループのプレゼンスを示していくことが目標です。

──具体的な施策などの予定はありますか。

井上

「つくる」では、トヨタ自動車株式会社と共同での大規模水電解システム開発で、2025年度からトヨタ自動車本社工場の水素パーク内に水電解システムの導入を始め、将来的には20MWまで拡大し実証や開発に活用していく予定です。また、オーストラリアのHazer社、中部電力株式会社と共同でのメタンから水素を生産する開発計画では、今後、中部圏で年間2,500トンから最大で年間1万トン規模のカーボンフリー水素を生産していく予定で、最終的には年間5万〜10万トンの製造能力を目指します。

「はこぶ」では、水素の先進地域である欧州では、スコットランドからロッテルダムへの水素ハイウェイ構想にも参画しています。
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伊藤

「つかう」では、ENEOS社向けに1BD(1Barrel per Day)規模の合成燃料の実証設備建設工事を完工しました。水素とCO2を原料とした合成燃料製造プロセスの早期技術確立を目指すプロジェクトで、2024年9月から運転を開始しています。

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また、INPEX社向けに、水素とCO2を合成してメタンをつくるメタネーション試験設備工事を遂行しています。製造能力は約400Nm3-CO2/hで、現時点で世界最大級の規模です。

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こうしたメタネーション技術は、ガスの脱炭素化において鍵となると言われています。

──大学や研究機関など、社外との連携についてはいかがでしょうか。

伊藤

パートナーとの共創も積極的に検討しています。水素サプライチェーンにおけるパートナーというと、再生可能エネルギー事業者やトレーダー、建設会社、顧客であるエンドユーザーなどがありますが……

井上

これまでとは違うマーケットをつくっているので、新しいパートナーと侃侃諤諤している状況です。これまで顧客だった企業がパートナーになった事例もあります。

森上

アンモニアから水素を取り出すための触媒の開発プロジェクトが一例ですね。これまで顧客であったJERAや、新しいパートナーである日本触媒とともに取り組んでいます。

井上

ベンチャー企業をはじめ大学や研究機関からお声掛けいただくこともあります。コアとなる技術を開発したものの、それを事業として実用化するための技術やノウハウがない。そんな時に、当社グループのような総合エンジニアリング会社がお役に立てるので。

伊藤

昨年新設されたバリューイノベーション推進部では、スタートアップ事業者や新技術の情報について幅広くアンテナを張っています。「これは!」と思える事業者には、こちらからアプローチして積極的に情報交換するようにしています。

井上

トヨタ自動車株式会社と共同での「大規模水電解システム」開発では、工業製品のプロであるトヨタ自動車と設備のプロである当社グループがお互いの強みを活かして、水素社会実現への貢献を目指します。今後、こういう試みを拡大していければと考えています。

水素供給コストの低減に向けて

──最後に、水素社会の実現には、コストをもっと下げる必要性がありますが、この取り組みについて教えてください。

伊藤

脱炭素社会の実現のためには、水素が必要であることは間違いありませんが、最終消費者が受け入れられるレベルまでコストを大幅に下げるための技術が欠かせません。そのために必要な技術について技術革新やEPC業務を通して貢献していくことが我々のミッションだと感じています。

井上

水素社会の実現に向けては、既存のエネルギー価格に比べて高い水素の供給価格を低減させる必要があります。日本政府の「水素基本戦略」では、水素供給コストについて、現在の100円/Nm3を2030年に30円/Nm3、2050年20円/Nm3とする目標が掲げられています。当社グループは水素供給コストの削減に向けてサプライチェーン全体の最適化や技術改良、新たな技術の実用化などを通じて水素社会の実現に貢献します。

千代田の水素サプライチェーン

分散型MCH脱水素設備実証プロジェクトーシンガポール

トヨタとの大規模水電解システム共同開発