共創で描く水素社会の未来
水から水素をつくる水電解システムで世界をリードする存在に!

2025年1月

キーワード:

大規模水電解システム

2024年2月、当社はトヨタ自動車株式会社との間で、水から水素をつくる大規模水電解システムの共同開発および戦略的パートナーシップを構築していくことで合意。
現在、2025年度中の実証開始に向けて、両社による共創の取り組みが進んでいます。水素社会の実現に向けて、大きな可能性を秘めた本プロジェクト。当社の担当者4名に、目指すゴールやビジョン、事業にかける思いなどについて、座談形式で語ってもらいました。

CHIYODA CORPORATION

事業創造部長

安西 卓生

プロジェクトGX協創部 兼 事業創造部
プロジェクトマネージャー

小山 貴範

事業創造部 事業デザインセクション
グループリーダー

北條 喜洋

エネルギー営業推進部
第1セクションリーダー

吉田 彬男

日本発の技術とシステムで水電解市場を切り拓く

──トヨタさんと戦略的パートナーシップを構築するに至った経緯についてお聞かせください。

安西

水素の需要拡大と安定利用のためのサプライチェーン構築を目指し、産業界が横断的に集まる協議会に両社が会員企業として参画していたのが縁で、一緒に何かできないか、協議を始めたのがそもそものきっかけです。
水電解システム開発の取り組みは海外勢が先行しています。「日本発の技術で、水電解システムの社会実装を目指したい」という両社共通の思いが、今回のパートナーシップを進める原動力になりました。

吉田

今回のパートナーシップがスムーズに合意できたのは、トップダウンではなく実務者サイドで協議を重ねながら「一緒にやっていこう」というムードが自然に醸成されていったことも大きかったです。わが国政府は、「水素基本戦略」で、2030年の世界の水電解システム市場において、「日本企業によるシェア1割獲得(15GW)」を目標に掲げています。トヨタさんと力を合わせて、この目標達成に貢献していきたいと思います。

安西

今回のプロジェクトでは、燃料電池車MIRAIのキーテクノロジーである燃料電池スタックの原理、水素と酸素から水をつくり、その過程で発生する電気エネルギーでモーターを動かす仕組みを転用し、“水を電気分解して水素を発生させる水電解システム”の開発を進めています。トヨタさんの水電解セル・スタックの技術×当社がプラントビジネスで培った知見を組み合わせることで、大規模水電解システム共同開発を行い、新たな市場を切り拓いていきます。

水電解システム 概要

お客さまのさまざまなニーズに対応できるよう、世界最小レベルのサイズでありながら、水素の製造効率が高い水電解システムを開発中です。具体的には、5MW-10MW級を原単位(設置面積:2.5m×6m、水素製造能力:約100kg / 時間)として開発し、それらを組み合わせて標準パッケージ化することで大規模な水電解システムを構築します。5MW 水電解システムのコンセプトは完成しました。将来の大規模水素製造を見据えて、高効率20MW級システムの開発に取り組んでいます。2025年度からトヨタ自動社株式会社本社工場の水素パーク内に水電解システムの導入を始め、実証や開発に活用していく計画です。

水電解装置の模型。緑色部分がトヨタ開発の「水電解セル・スタック」

「新技術を育て、つなぎ、社会実装する」エンジニアリングの強みを発揮

──本プロジェクトにおいて、千代田化工建設が発揮できる強みやバックボーンにはどのようなものが考えられますか。

小山

当社は、独自技術であるSPERA水素TMを活用して、世界に先駆けて、水素を「はこぶ・ためる」国際間サプライチェーン実証事業を2015年から2020年までの6年間にわたって実施し、成功を収めることができました。このSPERA水素TM 事業開発に起因する海外グリーン水素市場の知見やノウハウは本プロジェクトを進める上で大いに役立っています。また、水電解装置は、トヨタさんが開発した水電解セル・スタックだけでなく、整流器やセパレータなどの複数コンポーネントで構成されるシステムです。当社がプラント建設で導入しているモジュール工法のノウハウを活用することで、お客さまの装置導入の簡便化や品質向上が期待できます。国内外のさまざまなプロジェクトで培ってきたプロジェクトマネジメントのノウハウも、技術開発を滞りなく進めていく上で有効です。
エンジニアリング会社としての当社の強みは「新技術を育て、つなぎ、社会実装する」ことにあります。この強みを最大限に発揮し、お客さまの幅広いご要望に対応していきます。

  • 建設地とは別の場所で施設構造物(モジュール)を組み立て、輸送船で建設地に移送し、各モジュールを接合することによりプラントを完成させる工法。現場作業の工数が大幅に削減でき、工期の短縮を実現する。
安西

水素の使用量や設置面積など、お客さまの幅広いニーズに対し、5MW-10MW級の小型装置を組み合わせて最適なスケールアップを図ることができるところも、われわれが持つ大規模プラントエンジニアリングのノウハウ・経験が活用できる部分です。

小山

その通りです。水電解システムの構成はさほど複雑なものではありませんが、重要なポイントは全体を一つのシステムとして問題なく機能させること。人間に例えると、水電解システムの心臓に相当するのが、トヨタさんが開発した水から水素を生成する水電解セル・スタックです。そして、水電解システム全体にいかに効率よく血液を巡らせるか、構成要素の最適な組み合わせを設計するのがわれわれの大きな役割の一つです。例えば、システムの規模や仕様に応じて、装置の作りやすさを意識したレイアウト、あるいは水電解セル・スタックの性能を最大限発揮できるような制御方法など、細かく調整しながら臨機応変に対応しています。

水素を「つくる・はこぶ・ためる・つかう」サプライチェーン構築の加速に貢献

──水素は、脱炭素社会実現の切り札として期待されています。本プロジェクトが目指すゴールについて教えてください。

北條

2030年までに水電解システム年産1GWを一つのターゲットにしています。また、水電解システムの普及・拡大を図っていく上で重要な鍵となるのが、水素製造価格の低減です。日本政府の水素基本戦略では、水素供給コスト(CIFコスト)について2030年に30円/Nm3、2050年に20円/Nm3が目標に掲げられていますが、安価な水素製造価格を実現できなければ、ビジネスが成り立たず、水素利活用・普及拡大が困難となります。お客さまのライフサイクルにおける水素製造コストをいかに低減するかも重要なテーマです。

安西

水電解システムのコスト構造を見た場合、最も大きな割合を占めているのが水電解に必要な電気料金です。低コスト化を実現するためには、電気料金をいかに安く抑えるかが重要なポイントです。われわれが大規模太陽光発電プラントや大型蓄電池システムの設計・建設、先進的な電力システムマネジメントの取り組みなどで培ってきたエネルギーマネジメントの知見を活かすことが出来ます。

北條

そうですね。「システム=身体全体」が効率よく機能するために指示・命令を行う「頭脳」に相当するのがエネルギーマネジメントであり、ここでもわれわれの強みを発揮できると思います。

──「水素社会」の実現に向けた本プロジェクトの意義についてお聞かせください。

北條

水素社会の実現には、水素を「つくる・はこぶ・ためる・つかう」サプライチェーンの構築が欠かせません。当社の取り組みは、これまで「はこぶ・ためる」が先行していましたが、今回のプロジェクトで水素を「つくる」領域にも広がったことで、サプライチェーン構築の加速に貢献するとともに、より多面的なソリューションを提供できることになります。

吉田

本プロジェクトは、水素サプライチェーンというある種のインフラをゼロから構築する中での事業の立ち上げという意味でかなりハードルは高いものの、水素の利活用を実現する機会創出につながります。それだけに、社会に対するインパクトは大きく、とてもチャレンジのしがいがあります。
水電解システムの市場は、ドイツをはじめ海外勢が一歩リードしている状況ですが、将来われわれの製品が世界的に広まれば、水素社会の実現に一歩近づくことにもなります。さらに、わが国のエネルギー安全保障にも貢献できます。

安西

大規模な水電解システムの普及・拡大を目指す一方、小規模の水素ステーションといった用途での活用も期待されています。当初、水素ビジネスでは、水素を安く作れる地域で大量に製造し、供給地に輸送して利用する形が想定されていました。しかしながら、大規模輸送・貯蔵に伴うコストを低減することが大きな課題になっています。この課題解決に向けて、地産地消の取り組みが見直されてきています。生活により身近な場所に水素の利活用が可能なインフラを整備できれば、水素社会の実現を後押しすることにもなるでしょう。

言いたいことを言い合える“良い共創”が推進力

──トヨタさんをはじめさまざまなパートナーとの共創について、どのようにお考えでしょうか。

吉田

エネルギーに関連した仕事を継続していくためには、カーボンニュートラルを念頭に置いた取り組みが不可欠です。脱炭素社会の実現に向けてさまざまな技術開発が進む中、どれが本命になるかは、まだまだ不確実な状況です。その中で、将来を見据えて当社単独ですべての施策を行うのは現実的ではありません。そこで重要になってくるのが、各社それぞれの強みを生かした共創です。
今回のプロジェクトでは、「工業製品のプロ」であるトヨタさんと「設備のプロ」である当社が、お互いの強みを活かした共創を実現できました。今後、他の分野にも共創の取り組みを拡大していきたいと考えています。

安西

パートナーとの共創によってプロジェクトを進める際、コミュニケーションが重要だと改めて感じました。今回、最初のチームビルディングの段階から、トヨタさんの懐にわれわれが飛び込んで、物おじせずに話ができた点は良かったですね。

小山

トヨタさんとはテーマを変えてほぼ毎日打ち合わせを行う中で、お互い遠慮をせずに必要なことを言い合える、とても良い関係を築けていると実感しています。
トヨタさんとは業界が違うため、日常業務で使用する用語やデータの定義一つを取ってみても意味合いの異なることがたくさんあります。手間を惜しまず、それらを1個1個確認しながら会話するうちに、自然と両社の距離が縮まっていった印象もあります。

吉田

営業活動でも共創は着実に進んでいます。今回のプロジェクトが報道されて以降、トヨタさんにはさまざまな会社からお問い合わせがあり、打ち合わせにはわれわれも一緒に入らせていただいています。逆に、エネルギー関連のお客さまから当社に打診があった場合は、トヨタさんにも入っていただき、具体的なご要望を一緒に聞くというスタンスで対応しています。

エネルギー資源のないこの日本で、”つくれるエネルギー、水素”の日本製水素製造設備の普及がいかに将来の日本を元気にするか、また日本政府の千代田化工建設様と我々に寄せる期待をヒシヒシと感じています。また水素は様々なエネルギーへ変換できるため,水素をインターフェースに,今までの自動車550万人を超えて、より多くの仲間とつながれることにワクワクしています。
千代田化工建設の皆さまとお会いすると、この分野での圧倒的な自信を感じます。おそらく長年、世界を相手に戦われてきた歴史が背景にあると推察しておりますが、設備分野に飛び込む我々からすると大変心強く、頼れるパートナーであると考えております。
トヨタには“障子を開けてみよ、外は広いぞ”という言葉がありますが、それを日々実感しています。
千代田化工建設の皆さまと、一緒にプロジェクトをさせていただけること、また日本の技術で将来の子供たちや地球環境に貢献できることに感謝しています。プラントと自動車を融合させて、オンリーワンの商品をつくりあげましょう!

トヨタ自動車 本社工場
水素パーク

トヨタ自動車株式会社

水素ファクトリー
水素事業推進部 水電解Gr
グループマネージャー

小郷 知由

システムの価値を最大化し、なるべく早く市場参入へ

──現状の課題、および課題解決に向けたお考えをお聞かせください。

北條

水電解システムの心臓である水電解セル・スタックのポテンシャルを最大限に引き出すためにどうすべきか。課題はこの点に尽きると思います。トヨタさんが日々改善の努力をされており、われわれもシステムの価値を最大化するために試行錯誤しながら取り組んでいます。

小山

水電解の分野において、われわれは後発組なので、何かとがったもの、差別化を図ることが出来るように開発に取り組んでいます。その一方で、切りの良いところで一度開発に踏ん切りをつけて、なるべく早い段階に市場に入っていくこともポイントです。そのタイミングをいつにするか。このあたりのバランス感覚がとても難しいですね。実際にお客さまに製品をご利用いただき、改善点があればすぐに対応することで製品の品質はさらに磨かれます。この先、社会実装のタイミングをどこに置くか。2027年度中の本格展開を視野に、トヨタさんと十分すり合わせを行いながら、なるべく早く実現したいと考えています。

安西

確かに大切なポイントですね。私自身、新規事業の立ち上げを複数経験していますが、新たなシステムにはお客さまも慎重になるので、最初に水電解システムを導入いただくのはかなりハードルが高いことだと実感しています。苦労が多いぶん、最初の1基を売ることができれば、その先に新たな世界や可能性が広がってくるはず。1日も早く実現したいと思います。

このプロジェクトを成功させ、世界地図を塗り替える!

──最後に、本プロジェクトにかける思いや今後の夢について、ひと言ずつお聞かせください。

北條

安西さんのお話の通り、まずは最初の1基を早く稼働させたいと思っています。そのためにも競合他社と比較し、より魅力的なシステムを世に出していくことが、与えられた大切な役割と認識しています。この役割を全うすることが脱炭素社会の実現に近づくことにもなるという思いで、引き続き頑張っていきます。

吉田

日本を代表するグローバル会社であるトヨタさんとのパートナーシップを糧にして、水電解システムの普及・拡大に邁進し、マーケットの世界地図を塗り替えたい。これが私の夢です。

小山

本プロジェクトが、当社のパーパス「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」を象徴するモデルケースとして社会に広く認知されるように、ぜひとも成功させたいですね。

安西

同感です。当社がパーパスを実現し、世の中を変えていくためには、規模感のある案件を成功させる必要があります。実現できれば会社経営の安定化に寄与し、結果的に幅広いビジネス領域で新たな共創を実現する可能性も広がると思います。トヨタさんとの共創で2030年までに年産1GWのスケールを実現し、世界に誇れるビジネスとして大きな花を咲かせられるよう、引き続きメンバー一丸となってチャレンジしていきます!

【日本語版】トヨタ自動車との大規模水電解システム共同開発

【英語版】Chiyoda and Toyota Jointly Developing Large-scale Electrolysis System