
総合エンジニアリング会社の技術・ネットワークを活かし、最適の水素サプライチェーンを構築する
──水素社会の実現に向けて、当社グループはどのような役割を果たそうとしているのでしょうか。
森上
水素社会を実現するためには、水素が長期的・安定的かつ大量に供給され、社会のさまざまな分野で利用されるサプライチェーンの構築が必要になります。そこで我々は、水素をつくるために利用する一次エネルギーである再生可能エネルギーの手配から、最終的に水素が使われるところまで、つまり「つくる、はこぶ・ためる、つかう」のサプライチェーンの構築と全体最適化に取り組んでいます。このためには、総合エンジニアリング会社の存在価値である、さまざまな技術を「育て」「つなぎ」「社会実装」することが求められます。まさに、総合エンジニアリング会社の腕の見せどころでもありますね。
当社グループが描く未来の水素コミュニティ




(当社グループによるスマート・スケーラブルエンジニアリング)
──具体的には、どのような取り組みを進めているのでしょうか。
つくる
井上
まず「つくる」です。水素は、水、再生可能エネルギー、石油や天然ガスなどの化石燃料など、様々な資源からつくることができます。当社グループは、トヨタ自動車株式会社と共同で、水から水素を作る大規模水電解システムの開発を推進しています。
トヨタ自動車が持つ燃料電池技術を用いた水電解セル・スタックの生産や量産技術と、当社グループの強みであるプロセスプラント設計技術や大規模プラントの建造技術を融合・最適化することにより、競争力のある大規模水電解システムを開発することで、急激に拡大する国内外の水素製造市場に対応します。
また、オーストラリアのHazar社、中部電力株式会社と共同で、Hazarプロセスを用いて、メタンから水素を生産する開発計画も進めています。
はこぶ・ためる
井上
「はこぶ」「ためる」については、当社グループは液体有機水素キャリア(LOHC: Liquid Organic Hydrogen Carrier)であるMCH(Methylcyclohexaneの略、メチルシクロヘキサン)を用いた水素を「はこぶ」「ためる」技術を開発、確立しました。このMCHをラテン語で“希望せよ”を意味する「SPERA」(スペラ)を冠して「SPERA水素™」と名付け、このシステム全体を「SPERA水素システム」と呼んでいます。このLOHC-MCH(SPERA水素システム)を用いた世界初となる国際間水素サプライチェーン実証事業も2020年に完了しています。
LOHC-MCHシステム(SPERA水素システム)


伊藤
実証事業では、水素をMCHの形に変えてブルネイ-川崎間を輸送、貯蔵し、日本で水素を分離して利用することに成功しました。将来は大量のクリーンな水素を長距離輸送することが可能であると実証したのです。
実証事業の概要

実証事業におけるMCH製造から水素の発電利用までの流れ

井上
水素を「はこぶ」「ためる」手段である水素キャリアには、MCH、アンモニア、液化水素があります。アンモニアや液化水素は輸送・貯蔵に当たって低温にする必要がありますが、MCHは常温・常圧の液体状態で長期輸送・貯蔵できるという優位性があり、水素キャリアの中でも最もハンドリングが容易です。貯蔵にも石油タンクを二次利用するなど、既存のインフラを活用できる点もコスト面で優れています。
つかう
森上
次に「つかう」について、国際間水素サプライチェーン事業では、ブルネイからMCHの形で輸送した水素を国内初の発電利用として、2020年に東亜石油株式会社の水江発電所のガスタービンに水素を供給しました。シンガポールでは、MCH小型脱水素パッケージを用いた輸入水素の分散型利用の適用例としてPSA Singapore社Pasir Panjang Terminal にて、2024年前半に港湾内作業用FC大型車への輸入水素充填実証運転を開始しています。水素は将来的に、発電、モビリティ燃料、石油化学や水素還元製鉄など幅広い産業での原料・熱利用をはじめ、さまざまな場面において利用されることが期待されています。
シンガポールでの港湾内作業用FC大型車への輸入水素充填実証運転装置 全体イメージ図

最適な技術の組み合わせによるソリューション
を提供し、水素社会の早期実現に貢献する
井上
既存の石油流通インフラをそのまま活用したい顧客にとってはMCH(SPERA水素)を導入するメリットがある一方、インフラを持たない顧客には、建設費が相対的に安価となる他の選択肢が適切な場合もあります。
世の中がクリーンエネルギーにシフトしていく中で、総合エンジニアリング会社の使命は、水素やアンモニアなど顧客が求めるものを選択できるよう、技術に色を付けずにソリューションを提供していくこと。それが当社グループのパーパス「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」の実現にもつながると考えています。
森上
顧客の環境、利用用途や量に応じて、MCHや液化水素、アンモニアなど幅広い水素キャリアの選択肢を提供することが重要だと考えています。総合エンジニアリング会社として、顧客のニーズに応える会社を目指したいです。
外部の方からは、「当社グループといえば、SPERA水素でしょう」と言われることもありますけど。総合エンジニアリング会社である以上、全てのクリーンエネルギーに対して、技術開発はオープンであるスタンスを強く発信していきたいですね。
