“かなえたい”を社会実装するために

2024年11月

キーワード:

パーパス

CHYODA DX STORY

当社グループは、2023年8月に「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」というパーパス(私たちの存在意義)を策定しました。
この新たなパーパスのもと、マテリアリティの再定義を行いました。これらのマテリアリティへの取り組みを通じて、パーパスをどのように実現していくのかについて、若手・中堅社員と太田代表取締役社長が意見を交わしました。

CHIYODA CORPORATION

代表取締役社長 CEO 兼 CSO

太田 光治

ガス・LNGプロセス設計部

山﨑 光洋

事業創造部

本多 知佳

プロジェクトGX協創部

北澤 宏

ライフサイエンスプロジェクト部

中村 侑希

IT マネジメント部

手塚 亜紗子

国内エネルギー環境プロジェクト部

花輪 駿

マテリアリティへの取り組みを通じたパーパスの実現

太田

当社グループは長年にわたり「エネルギーと環境の調和」をミッションに掲げ、その実現に向けて石炭・石油からLNGに主軸を移しながら事業を推進してきました。しかし、近年私たちの使命は「エネルギーと環境の調和」に留まらず、さらなる広がりを見せています。これを踏まえ、2023年に新たに当社グループ全体を包含し、目指す方向性を改めて皆さんと共有するための指針となるパーパスを策定しました。この新たなパーパス実現に向けたマテリアリティとして再定義したのが、E(環境)環境負荷低減社会の実現」、S(社会)豊かで健やかな生活の実現」・「多様な人財が価値創出にチャレンジできる組織風土の実現」・「社会課題に自律的に取り組む人財の創出」、G(ガバナンス)公明正大な企業運営」の5つです。本日は、若手・中堅社員の皆さんが社会の“かなえたい”をどのように捉え、その実現に向けてどのようにマテリアリティに取り組んでいくのかについて、皆さんの考えなどを含めお話ししたいと思います。

山﨑

社会の“かなえたい”は時代ごとに変わりますが、現代では脱炭素社会への移行が大きな“かなえたい”だと思います。私は現在、プラントから排出されるCO2を回収・貯留するCCS※1関連の業務に携わっており、「環境負荷低減社会の実現」の取り組みを通じて、脱炭素社会への移行に寄与したいと考えています。脱炭素に向け、2050年カーボンニュートラルという漠然とした目標はあるものの、目標達成までの具体的な道のりを描くことは顧客にとっても難しい課題です。こうした状況で、エンジニアリング会社には無数の選択肢から最適解を見出し、提案することが求められています。現在私が担当しているCCSのプロジェクトはFS※2やFEED※3の段階ですが、検討の初期段階に事業として成立するか否かを正しく評価し、当社グループが請け負うプラント単体ではなく、顧客の事業全体として最適な提案をすることで実現性を高め、着実にプラントを完成させることがマテリアリティの実現につながると考えています。広い視点を大事にしながら顧客の事業を成功に導くことで、間接的にではありますが、社会の“かなえたい”に貢献していきたいと思います。

  • 1:Carbon Capture Storageの略。プラントから排出されるCO2を回収・貯留する技術
  • 2:Feasibility Studyの略。概念設計を行い、様々な角度から事業採算性の有無を検討する
  • 3:Front End Engineering Designの略。概念設計・FSの後に行われる基本設計で、技術的課題や概略費用などを検討する
本多

私は現在、フロンティアビジネス本部でVPP※4やケミカルヒートポンプなど「環境負荷低減社会の実現」につながる新事業の創造を担っています。その立場からも、脱炭素の取り組みをビジネスとして成り立たせるという視点は重要だと考えます。環境負荷低減への取り組みは必須ですが、莫大なコストが伴います。企業としては、社会貢献だけでなく利益の追求も不可欠であり、「環境負荷低減」を単なるコストではなく、価値創出につなげなければなりません。私はプロジェクトを進める上で、いつまでにどの程度コストが発生するのか、そしてどのように商業化していくかなど、ビジネスとして成り立つ形で脱炭素へ移行する道筋を描くことを心がけています。前例のない事業なので簡単ではありませんが、特定の技術に限定されず、幅広い技術を取り扱うエンジニアリング会社としての強みを活かし、常に最適な選択肢を模索しながら、顧客とともに社会実装につなげたいと思います。

  • 4:Virtual Power Plantの略。仮想発電所。電力調整力を価値として取引し、電力の需給バランス調整に貢献する
花輪

私も山﨑さんと同様にCCS関連の案件に携わっており、顧客は目標実現に向けた具体的なアプローチの策定に苦労していると感じます。顧客自身が具体的な道筋を明確にしていこうとしている中で私たちが重視すべきなのは、顧客にとっての優先事項を正確に捉えることだと考えています。それらを踏まえて、各要素技術への深い理解を基盤とし、顧客の意向だけでなく、顧客の社会的な立ち位置や社会情勢も念頭に置き、工程やコスト、各種リソースなど一見相反する要素を最適化できることこそが、エンジニアリング会社である当社グループが長年プラントEPC※5を手掛ける中で培ってきた強みだと思います。特に、FSやFEEDといった社会実装に向けたステップを進めていく段階では、このような強みの発揮が顧客から強く求められていると感じています。顧客にとって総合的に最適な方法とは何かを考え、目標に向けた具体的な道筋を共創することで、顧客の“かなえたい”を実現していきたいと思っています。

  • 5:設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)
北澤

私は現在、北米案件の積算業務に従事しており、事業変革の観点から、プロジェクトのリスク低減に向けた基礎を築けるのではないかと考えています。EPCにおいてリスクの見極めは最重要課題であり、特に北米は機会が多い反面、リスクも大きい地域です。現在担当している案件はリスクが複雑に絡み合っているため、リスク領域を徹底的に洗い出し、あらゆる対策を立案しながら積算を行っています。このようなリスクの同定や対策の立案は、今後の北米案件のロールモデルになるだけでなく、地域や事業領域に関係なく、EPC全般におけるリスクマネジメントの基礎になり得ると考えています。また、現在担当している業務は、新規事業の創出・拡大を支える基盤として、既存事業での利益確保という重要な役割を果たす役割であり、最適解を導きながらパーパスの実現に貢献していきたいと考えています。

中村

私は、ライフサイエンスプロジェクト部で医薬品プラントに携わっていることもあり、社会の“かなえたい”を「人々や環境が幸せになるために求めるもの」として広く捉えています。その中で、「求めるもの」の一つとして、ライフサイエンス事業を通じて「豊かで健やかな生活の実現」に貢献できると思っています。これまでLNGやエチレンプラントのEPCに従事し、間接的にではありますが、生成した素材をもとに様々な製品を幅広いユーザーに提供できる点にやりがいを感じていました。一方で、医薬品プラントは特定の疾患を抱える患者さん向けの薬を製造するため、ガスや化学プラントと比較すると規模は小さいものの、当社が建設したプラントで生産された製品がエンドユーザーに直接届く点に大きな魅力を感じています。2021年にはワクチンの原薬製造プラント建設に従事し、現在は治療薬の医薬品製造プラント建設に取り組んでいます。これらのプロジェクトは、経済安全保障の強化や病気で苦しむ患者さんの安全安心に貢献できる社会的意義の大きな案件です。また、近年、医薬品の国内サプライチェーンの強靭化も構想されており、医薬品市場は当社グループにとっても石油化学分野の知見を活かして豊富な実績を積み重ねてきた基盤となる事業分野でもあるため、確実に建設を遂行し遅延なく完工することで、マテリアリティの実現と当社の成長への貢献を目指し、日々使命感を持って業務に取り組んでいます。

手塚

私はCDO室※6でコーポレートDX施策に携わっており、「多様な人財が価値創出にチャレンジできる組織風土の実現」と「社会課題に自律的に取り組む人財の創出」に寄与できると考えています。本日座談会に参加された皆さんは、当社でのキャリアを積む中で、自身のキャリアパスや目指すべき姿が見えてきている方たちだと思います。しかし、会社としては明確なキャリアの選択肢を示す資料やツールが不足していると感じており、社員自らのキャリア自律には十分な環境ではないと思っています。この課題を解決するため、現在CDO室ではタレントマネジメントの取り組みを推進しています。具体的には、全社員の業務経験やプロジェクト遍歴などをシステムに集約し、人財のキャリアパスや育成パスを可視化することで、社員のキャリアや可能性を広げることを目指しています。他方、会社としては事業計画に基づいた戦略的な人財開発や人員配置と現状のギャップを把握することが可能となります。今後も取り組みを進め、社員一人ひとりのキャリア志向と会社の求める人財像が合致する理想的な環境を皆さんと作っていきたいと考えています。

  • 6:Chief Digital Officer直下で、業務プロセス改革、プロジェクト遂行強化を目指し、全社DX施策を加速遂行する組織
太田

近年、企業の社会的責任がますます問われる中で、顧客が抱える課題は年々複雑化しています。そのため、顧客単独で解決策を見出すことも困難になっています。このような状況下では、皆さんの言う通り、顧客の要望を整理し、様々な技術や知識を駆使して実現可能な解決策を提案することが求められますし、それができるのがエンジニアリング会社である当社グループの大きな強みです。課題が複雑化し、考慮すべき要素やカバーすべき領域が多岐にわたる中で、最適な解決策を提案するためには、社内だけでなく、社外のパートナーシップも積極的に活用し、顧客に対して提案していく姿勢が大切です。今後も顧客の課題を自分ごとと捉え、解決に向けた取り組みを進めていってほしいと思います。また、DXや人財育成については、一見すると事業とは直接関係がないように見えますが、実は非常に重要です。これらの取り組みは、前述のような提案ができる能力を備えた人財の育成や、社員が積極的に挑戦できる環境の整備を含む、当社グループ全体に影響を与える基盤となります。特に人財育成については、社員一人ひとりに様々な経験を積んでもらい、会社全体としての対応力を高めることを目的に、人財の流動化に注力しています。近年、事業分野を跨いだ人財異動を積極的に実施した結果、当社の業務の幅も広がってきたと感じています。今後は、意識改革を含め、全社的な視点での人財育成や人員配置を進め、当社の強みをさらに強化していきます。

「ありたい姿」の実現に向けて

本多

私が目指す目下の「ありたい姿」は、担当している新規事業で収益を上げ、会社に貢献することです。これまでに前例がない分野であるため、国の制度の検討や新技術の社会実装に向けた試行錯誤を重ねることが必要で、一足飛びに成果を出すことが難しく、ステップを踏みながら進めてきました。しかし最近では、社内連絡会や中期経営計画でも注力事業として取り上げられるようになり、事業化の兆しが見えてきました。これを励みに、最初の大きなハードルである収益化を実現し、将来的には事業分野をさらに広げていきたいと考えています。目標実現に向け、技術の深化を進めるとともに、関連部署との連携や組織の強化にも力を入れていきたいと思います。

手塚

私はコーポレート部門の立場から、当社グループを、社員が満足度や幸福度高く働ける会社にしたいと思っています。現在取り組んでいるタレントマネジメントなどのコーポレートDXも、最終的には社員の満足度や幸福度の向上につながるという思いで推進しています。当社グループのDXの取り組みは、紙からの脱却であるデジタイゼーションや業務プロセスの電子化を進めるデジタライゼーションの段階にありますが、次のステップとして業務プロセスそのものに変革をもたらすデジタルトランスフォーメーションを実現することが、私の直近の目標です。今後は、これまで以上に各事業部と連携し、事業部のニーズに寄り添った業務プロセスの変革に踏み込んでいきたいと思います。

山﨑

本多さんのように新規事業による新たな価値の提供に試行錯誤している方がいる一方、私は、国からの補助金が決定したCCSなどの分野で、いとも簡単に需要が生まれ、顧客から案件を受注するという経験をしました。市場を自ら作り上げる難しさと、当社が需要の変動や顧客の動向に左右されやすい受注産業であることを痛感しています。私が所属する部署も、これまでLNGを中心とした設計業務が主流だったのが、急激にCCS関連業務の取り組みが加速しました。当社が市場を作り上げるには多大な労力と時間が必要ですが、既に需要が確立している市場でも、大型案件の選定にはリスクとリターンのバランスの見極めが必要です。このような背景を踏まえ、当社グループが今後どの市場でどのように戦っていくのかなど、私たちのあるべき姿について、改めて考える必要があると感じています。一方で、当社グループはこれまで突発的な需要にも柔軟に対応してきた実績があり、環境変化への対応力が最大の強みであるとも感じています。「ありたい姿」の実現に向けては、このような柔軟性も重要だと考えているので、中堅社員として、どのような状況でも臨機応変に対応できる人財の育成にも積極的に関わっていきたいと思います。

北澤

今後のEPCの在り方については、以前議論の場に参加する機会がありました。大型案件を追求し続けるべきか、それとも短期間で完了し、若手が経験を積みやすい中型案件に重点を置くべきかが焦点となりました。それぞれに一長一短があり、当社を取り巻く事業環境も大きく変化していますので、EPCの在り方については案件規模以外の観点も含めて今一度議論する必要があると考えます。また、EPCに限らず、会社全体の「ありたい姿」を考える上では、当社グループのコアビジネスは何なのかを徹底的に議論し、譲るべき部分と守るべき部分を明確にすることが重要です。全社が同じ方向に進むための指針として、私たち中堅社員も率先して考えていかなければならないと感じています。

中村

受注産業という点では、当社グループのようなコントラクターはどうしても顧客に対して弱い立場になりがちです。特に国内では、顧客の指示や要望には必ず応じるという姿勢が当社グループに根付いていると感じています。このような状況に加え、近年資材費や人件費が高騰する中、コストの増大に見合った顧客とのリスクバランスの交渉はコントラクターの最大の課題と認識しています。当社グループが提供した価値に見合う利益を確保し、社員がより働きやすい環境を整えるためにも、顧客と対等な立場で意見を交わし、理解を得られるパートナーシップを築くことが、私の理想とする姿です。このためには、顧客に認められる価値を提供することが大前提だと考えています。現在担当している医薬品プラントのプロジェクトにおいても、従来の立場にこだわらず、生産効率の向上やコスト削減、品質の向上につながる価値のある提案を積極的に行っていきたいと思います。

花輪

私も顧客と対等な立場で協力し、パートナーとして意見を共有しながら仕事を進めていく姿が理想だと考えています。顧客との関係という観点で言えば、FSの段階では、顧客との関係は比較的対等であり、フラットな議論ができていることも多いのではないかと感じています。FSのように、仕様が固まる前の初期段階から信頼関係を築くことで、FEED、EPCにおける対等な関係確保につながるものと考えています。実際に、2023年に担当したFSのプロジェクトでは、顧客から当社グループの価値を認められ、FEEDもぜひ一緒に進めたいとのお言葉をいただきました。このように、初期段階から顧客とパートナーとしての関係を構築できる案件が増えれば、収益性の改善につながります。FSやFEEDはEPCに比べて案件ごとの規模は小さいですが、リスクが低いため、最終的なEPC受注にこだわらず、FSやFEED単体で十分な価値を提供し、利益を積み上げていく方向性も検討する価値があると思います。

太田

北澤さんからEPCの在り方についてお話がありましたが、私自身は、新規事業の創出に時間を要する中、成長の基盤となる収益を確保するという点において、EPCは非常に重要な役割を果たすと認識しています。また今後、新規事業においてより広範な分野でエンジニアリングを展開する上で、EPCで培ってきた経験と知見を活かし、調達と建設を見据えた提案ができることは、当社グループの大きな強みになるはずです。しかし、すべての案件のゴールがEPCの受注である必要はないと思います。これまではEPCを最も利益が得られるビジネスモデルとして追求してきましたが、リスクが増大する現在、それが本当に最良の選択かを再考する時期に来ています。EPCで磨いたエンジニアリングのノウハウを別の形で活かし、一度に大きな利益を上げるのではなく、長期的に利益を創出できるビジネスモデルの確立にも挑戦していくべきです。そのためには、中村さんや花輪さんの発言の通り、「依頼されて作る」というようなコントラクターの立場からパートナーシップへの転換が必要です。実際に、ライフサイエンス分野では、医薬品の開発製造受託事業に出資し、顧客のパートナーとしてプロジェクトに参画する試みを始めています。本日皆さんにお話しいただいた通り、顧客の“かなえたい”の実現に向けて課題解決の道筋を切り拓くことが当社グループの大きな役割であり、提供できる価値であることは間違いありません。しかし、その価値をどのような形で提供するのかについては、パーパスをさらに具体化し、皆さんが描く当社グループの「ありたい姿」をもとに、決めていく必要があります。将来を担う人財である皆さんには、あらゆる可能性を考え、議論してほしいと願っています。今後もこのような議論の場を積極的に設けていくので、パーパス実現に向けた当社グループの目指す姿をともに考え、描いていきましょう。