カーボンニュートラル社会に向け、脱炭素技術の早期実装への挑戦【後編】

2025年3月

キーワード:

CO2分離回収新技術

CO2からエチレン製造

CO2からポリエステル繊維製造

アンモニア分解新技術

産学官での共創

当社はマテリアリティ(サステナビリティの重要課題)で掲げる「環境負荷低減社会の実現」に向けて、さまざまな技術開発に取り組んでいます。今回は脱炭素分野にフォーカスし、天然ガス火力発電所排ガスからの低濃度CO2の分離回収や、CO2からエチレン(基礎化学品)およびパラキシレン(ポリエステル繊維等の原料)を製造する技術、発電燃料としての水素をアンモニアから生成する技術について紹介します。各担当者から、技術の内容や産学官での共創事例、社会実装に向けた取り組みなどについて語ってもらいました。

CHIYODA CORPORATION

事業創造部 炭素循環事業セクション
セクションリーダー

広畑 修

技術開発部 プロセス開発セクション
開発4グループリーダー

小谷 唯

技術開発部 研究開発センター
環境グループ

松本 純

技術開発部 プロセス開発セクション
開発3グループ

市川 裕紀

プロセス開発・触媒開発の知見を強みに、商業化への課題を乗り越えていく

──四つの脱炭素技術についてお話しいただきましたが、技術開発や社会実装に向けて、千代田化工建設が発揮できる強みは何だと思いますか。また、いまある課題をどのように乗り越えていく考えでしょうか。

広畑

創業当初よりプロセス開発と触媒開発を行っている点は、当社の強みにつながっていると思います。例えば、プロセス開発については、エンジニアリング力を生かし開発初期から商業機のプロセス設計を行い、そこからバックキャストして最短でスケールアップするためにどのようなデータを取り、どのように開発するべきか、といった技術開発全体のマネジメントが得意です。一方、触媒開発ですが、そもそも触媒は、化学反応によって有害な物質を減らしたり、有益な物質に変えたりすることができるため、モノづくりや資源・エネルギー分野において必須の技術と言えます。このプロセス開発と触媒開発の知見をミックスさせて提案できる当社は、あらゆる社会課題に立ち向かうことができるのではないでしょうか。

市川

アンモニア分野においては、アンモニアクラッキング技術に限らず、アンモニア合成プラントの商業機の実績があるなど、アンモニア全般の知識が深まっている点も当社の強みと言えます。脱炭素の動きの中で、燃料としてのアンモニアが注目されるようになり、その利用拡大に向けて新たなアンモニア製造法が求められています。当社は、東京電力ホールディングス株式会社および株式会社JERAと共同で、アンモニア製造における新触媒をコアとする国産技術を開発中です。従来のハーバーボッシュ法より低温低圧でアンモニアを製造することにより、製造コストの低減を目指すものです。

広畑

課題は、社会実装の一歩手前である実証段階において、より正確なデータを得るために大規模な装置を作る必要があるものの、それなりのコストがかかってしまうことです。開発した技術を少しずつでも世に出してアピールしながら、事業計画の解像度を上げていくことで、将来の資金集めにも活かせると考えます。

小谷

低濃度CO2分離回収技術の課題も同様のことが言えますね。設置のためには広い敷地が必要になるため、装置をコンパクトにする工夫が求められます。また、例えば株式会社JERAの火力発電所とのインテグレーション一つ取っても、電気は社会インフラなので万一トラブルが発生した場合、インパクトの規模が非常に大きくなります。

市川

私も共通の課題を感じています。アンモニアクラッキング技術も、既存設備への接続が必要になるため、設置できる装置の制約が多く、サイズを小さくするなどの工夫が求められます。また、インフラを支える火力発電所の稼働を維持しながら、新しいものを採り入れなければなりません。段階的に慎重に開発を進めることでリスクを低減したり、毒性のあるアンモニアに配慮して、万が一事故が起きた場合にどのくらいの濃度で拡散するかをシミュレーションする等の安全設計を行ったりしていきますが、大規模な社会インフラに係るため、大きなプレッシャーを感じることもあります。

松本

CO2からエチレンを製造する技術については、当社および7機関の産学官連携で共同研究を進めていますが、早期の実用化を実現していくためにも、パートナーを増やしていきたいですね。また、どんなに優れた技術でも導入されなければ意味がありません。そのためにも、一般の方に技術について知ってもらい、触れてもらうことが重要だと考えます。パラキシレン製造の事例を参考に各種メディアへの働き掛けや、お子さん向けのコンテンツなどと連携して外部にアピールしていきたいですね。

小谷

CO2分離回収技術の開発スケジュールについては、NEDOや経済産業省から「スケジュールを前倒しにできないか」と言われています。これは、プロジェクトに対する期待の高さの表れでもあると受け止め、スケジュールを早めることができないか検討中です。

広畑

年々、ゼロミッション電源の需要は高まり、特にCO2の分離・回収・貯留技術は社会から強く求められています。脱炭素化の流れが非常に早いので、世情を把握しながらスピード感を持って対応していかなければなりませんね。

産学官の共創で技術開発を加速

──産官学で連携してプロジェクトを進行していますが、パートナーと共創するメリットを教えてください。

広畑

パラキシレン製造技術では、国立大学法人富山大学が開発した触媒をハイケム株式会社が実際に商業機に入れられる形にし、日本製鉄株式会社が高度な分析技術等でサポートして、当社がプロセス開発、三菱商事株式会社が事業開発を担当しました。現在はパラキシレンの国内最大製造者であるENEOS株式会社にも参画していただいています。当社の脱炭素技術開発では、各分野における最大のユーザーとパートナーリングしています。社会実装に向けた技術開発を進めていく上で大きな強みになっています。

市川

アンモニアクラッキング技術の開発は長期計画のため、パートナーと一枚岩になることが重要です。現在、株式会社JERAや株式会社日本触媒と連携しながら、協力的に取り組められていると思います。また、触媒開発には10〜20年ほどの期間が必要ですが、本事業が始まる前からベースの触媒を開発していた株式会社日本触媒と協業することで開発期間が短縮できたのは大きなメリットだと思います。

松本

現在のプロジェクトを立ち上げる前より、私たちはCO2からエチレンを作る技術開発を進めていましたが、CO2源についてはあまり議論されていませんでした。そんな時、清水建設株式会社から「ビルのダクトにCO2回収装置を付ければいいのでは」と提案いただき、いまの形になりました。エンジニア会社にはない、ゼネコンならではの発想を提供してもらい感謝しています。協業してアイデア出しから一緒に取り組むことで、技術開発の視点が拡がり加速していく実感がありますね。

小谷

私も、CO2分離回収技術の開発に当たっては、株式会社JERA、RITE、当社の3社が持つ技術や知見を出し合うなど、それぞれの強みを活かして、うまく役割分担ができていると感じています。また、課題に直面した時には、過去のプロジェクトで培った人脈を活かし、さまざまなメーカーやベンダーに声を掛け、彼らから協力を得ることができています。パートナーと良好な関係が築けていることも、当社の財産と言えそうです。

──顧客やパートナーと協業する上で大切なことは何でしょうか。

小谷

技術面では、最終的なゴールを共有して取り組むことが大切だと思います。事業面では、出資の割合、リスクや責任の所在をどこが持つかなどを、忖度せずにきちんと伝え合える関係性づくりが必要なので、人間性も重要ですね。

松本

個別に商品を売るならば単純に性能だけを上げればいいのかもしれませんが、さまざまなパートナーが共創している以上、共通の最終目標を定め、温度感を合わせることは大切ですよね。

市川

私も、それぞれのパートナーが最終目標を共有しながら進めていくことがポイントだと思います。特に商業化の段階において、関係する全社がしっかりと利益を出せる状態であることを確認しながら、協業を進めていかなくてはいけません。

広畑

目標を共有しつつマイルストーンを刻み、自由度を残しながらそれぞれの強みを活かして、バランスを持って取り組むことが大切ですね。また当社は、さまざまなプロジェクトを遂行してきた実績があるので、課題解決力や統合力、遂行力に長けた人が大勢います。そのため、パートナーの一員として選ばれているのだと自負しています。

「脱炭素に千代田あり」を目指し、脱炭素技術の早期社会実装に貢献する

──最後に、今後の意気込みや思いをお聞かせください。

市川

アンモニアクラッキング技術は、化石資源に乏しい日本に必要な技術です。責任の重いプロジェクトになりますが、着実に一つ一つの課題を乗り越え、最後までしっかりと取り組んでいきたいと思います。

松本

CO2からエチレンが製造できるようになったとしても、その技術だけでは脱炭素社会の実現はかないません。他の技術と組み合わせて実装し、広く普及していくことが理想です。エチレンはさまざまな化学製品の基盤の役割を果たしていますので、多様な化学製品への有効利用を視野に入れながら、開発した技術を広めていきたいです。

小谷

CO2を炭素資源(カーボン)として捉え、これを回収し、多様な炭素化合物として再利用(リサイクル)することで、気候変動問題の解決はもちろん、新たな資源の安定的な供給源の確保にもつながります。このためにも、CO2を効率よく分離回収する技術を早期実装することで、脱炭素社会に貢献したいですね。

広畑

CO2からパラキシレンを作る技術に関しては、当社は世界のトップランナーです。このポジションを維持して、いち早く商業化を成功させたいと思います。2030年代前半には、CO2から作った服が店頭に並び、他の商品と同じように買える世界をつくりたいですね。 また、世界的な脱炭素の流れに合わせて技術開発を進めていますが、一つでも多くの技術を確立し、社会実装して商業化することが目標です。「脱炭素に千代田あり」と言われるように、この分野での地位を確立できるよう全力を尽くしていきたいと思います。