エンジニアリングの知見を活かしてCCSの社会実装に挑む

2026年2月

キーワード:

CCS

CO2回収・貯留

バリューチェーン全体を最適化

事業共創

脱炭素社会の実現に向け、当社は水素をはじめとするクリーンエネルギーの開発を進める一方、化石燃料から排出されるCO2を「回収」する「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」にもいち早く取り組み、日本国内をリードする存在になっています。ここ数年、国内の取り組みが加速しているCCSについて、当社の事業をけん引する玉川 淳部長(技術本部 ガス・LNGプロセス設計部)に話を聞きました。

脱炭素社会の実現に向け、新たなエネルギーへの移行期間を支える

――まず、CCSの概要について教えてください。

プラントなどの排ガスに含まれるCO2を分離・回収し、地中深くに貯留する技術です。脱炭素社会の実現に向けて太陽光をはじめとする再生可能エネルギーの活用に加え、水素やアンモニアといった燃焼時にCO2を排出しないクリーンエネルギー利用についても開発が進んでいますが、従来の化石燃料から一気にこうした新たなエネルギーに切り替えられるわけではありません。新たなエネルギーへの移行が進む間、CCSはカーボンニュートラルの達成を支える有効な手段の一つとして期待されています。
CCSの技術研究は数十年前から進められてきましたが、社会的に注目を集めるようになったのは最近です。日本では2020年に政府が「2050年カーボンニュートラル達成」を宣言したあたりから注目度が一気に高まりました。

――CCSのバリューチェーンについて、CO2を回収してから地下に貯留するまでの具体的な工程はどのようになっていますか。

CO2の分離・回収に始まり、圧縮・脱水を経て、最終的には地下層へ圧入・貯留します。貯留地点までの距離が短い場合は気体の状態でのパイプライン輸送、一方長距離の輸送の場合は、CO2を液化して体積を減らした後船舶による輸送が想定されています。船舶輸送の場合、液化したCO2を一時保管するためのタンクも必要になります。
船舶輸送のためのCO2の液化部分については、長年LNGで培った経験値がわれわれにはあります。LNGは燃料として活用されるのに対し、CO2は地中に埋められるという違いはありますが、それぞれ気体を液化して貯蔵、船で運ぶフローは共通しており、当社がLNGや石油・石化分野で培ってきた知見を発揮できます。

CCSバリューチェーン

事業者間をつなぐ橋渡し役として、バリューチェーン全体を最適化

――現在、CCSのバリューチェーン構築に向けて、どのような課題がありますか。

CCSは技術的には実現可能なレベルに達していますが、普及拡大に向けてコストをどれだけ圧縮できるかが大きなポイントです。そのためには、バリューチェーンを構成するさまざまな事業者間の連携が欠かせません。
バリューチェーン全体のコストダウンに向けて今焦点となっている項目の一つが、取り扱うCO2のスペックについてです。バリューチェーンの下流に位置し、CO2を圧入して地下に貯留する事業者としては当然リスクを最小化したいため、不純物が極力除去された状態で持ってきてほしいと考えます。ただ、高い純度の基準を満たそうとすれば、それだけ排ガスの処理にかかるバリューチェーン上流部分のコストは膨らんでしまいます。

――有効な解決策には、どのようなものがありますか。

全体最適の視点で、事業者間を取り持つ調整役の存在がとても重要です。プロジェクトに参加する事業各社は、それぞれ担当する分野のプロフェッショナルですが、バリューチェーンすべてに精通しているわけではありません。それぞれの事業者が持つ専門性を深く理解し、要望や意見などを他社にも伝わる形に「翻訳」して調整を図る。いわば橋渡し役となってバリューチェーン全体の最適化に貢献することは、幅広い技術に精通するわれわれエンジニアリング会社だからこそ果たすことができる役割です。
独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が旗振り役となり、関係団体が集まって協議を行う「LCO2船舶輸送バリューチェーン共通化協議会」でも、CO2スペックの標準化は大きな議題となっています。この協議会では私も委員を務め、エンジニアリング会社の立場からさまざまな提言を行っています。

――さまざまな技術を掛け合わせてつなぐエンジニアリング会社の役割が、プロジェクトの成否を左右する大切な鍵を握っているわけですね。

その通りです。当社はこれまで、国内外のパートナーとのジョイントベンチャーを設立し、そのリーダーとして事業を推進してきました。また、EPCコントラクターとして世界の機器資材メーカーや建設業者の皆さまと共に多くの案件を手掛けてきました。時には互いの利害関係が衝突したり、商慣習や文化の違いが存在する環境の中で、協働関係を築き上げながらプラントを納めてきた経験が、CCS事業の展開において活きると思います。

利用環境に合わせたベストなソリューションを提供

――CCS事業において、エンジニアリング会社としての知見を活かした、当社ならではのソリューションの特長を教えてください。

CCSバリューチェーン全体のコストダウンを追求する流れの中、近隣にある複数の排出事業者から回収した排ガスをまとめて処理、運搬する枠組み(ハブ&クラスター)が、有効な手段として検討されています。この場合、CO2の分離・回収、液化、貯留の各設備は大型化が必要となります。この点、われわれは、石油・石油化学、LNGをはじめとする大型プラントの設計・調達・建設の経験を活かした提案を行うことができます。
基本的に、大型の設備では大型の機器資材が必要になるのは当然ですが、必要最大量を想定して1機で対応できる機器を用意すれば最もコスト効率が高いかというと、必ずしもそうではないケースもあります。実際はランニングコストまで考慮に入れると、複数の機器に分けて対応した方が、生産効率が良いこともあります。

CO2の回収装置を例に考えてみましょう。各事業者からのCO2の排出量は、その時々における排出元の設備の運転状況や、発電量の変動に応じて変わることが多いため、常に一定量のCO2処理が必要になるとは限りません。処理量が少ない時期に大きな機器を動かすのはかえって非効率になります。バス輸送に例えると、最大50人が乗車する可能性があるとしても、日によっては5人から10人しか乗らないケースもあるため、50人乗りを1台調達するより、10人乗りを5台保有し、その日に必要な台数だけ走らせた方が無駄は少ないことになります。他方、バスの購入に目を向けてみると、50人乗りを1台調達する方が、10人乗りを5台購入するより安いかもしれませんし、バスの駐車場に必要なスペースを考えると、そもそも10人乗りを5台置くための敷地がないかもしれません。

プラント設計を考える際、どれがベストな選択なのか。事業者の利用環境に合わせ、国内外のさまざまなプロジェクトを通じて培った経験を活かすことができます。例えば計画から建設・運用に至るあらゆるフェーズにおいて、時には事業者も気付いていない視点や課題を見つけ、共に解決しながら全体最適を導くことが可能です。さらに、機器資材メーカーや建設業の皆さまとの関係性やこれまでの経験値を活かした、より精度の高い提案ができると考えています。

――他にも、当社の強みが発揮できるポイントはありますか。

「安全性」も排出事業者にとって関心の高いポイントです。ここでもさまざまなプラント建設で培った当社の知見が役立ちます。当社では経験に基づいたリスク評価や安全解析を重ねて、設計に反映していくことで安全を担保します。
CCSの設備での例としては、プラントの緊急脱圧時にCO2を大気に放出する場合、温度降下によりドライアイスが生成され、配管の通路をふさいでしまうリスクも考えられます。当社は現場で起こり得るさまざまなトラブルを常に想定しながら、事業者に安心いただける設計をご提案できます。
またCCSバリューチェーンでの取り組みを強化するために、各方面のプロフェッショナルとのパートナリングにも力を入れています。2024年にはCO2の分離・回収技術で世界の市場をリードし30年近い経験を持つ三菱重工業株式会社とCO2回収技術の包括ライセンス契約を締結し、CCSに携わる事業者として共に業界をリードする確固たるポジションを築いています。この他、CCSバリューチェーンにおける液化CO2の輸送方式に関する検討で日本郵船株式会社と、さらにCCS分野のリーディングカンパニーとして世界的に豊富な実績を誇る、英国のPace CCS社といった国内外の有力なプレーヤーたちとも協業関係を構築しています。

千代田化工建設 CCS事業の全体像

国内の先進的CCS事業に参画し、社会実装化を後押し

――日本国内では政府主導の下、CCS事業化に向けた取り組みも本格化しているようですね。最近の動向と当社がどのように関わっているのか、教えてください。

日本政府は2050年のカーボンニュートラル達成に向けたマイルストーンとして、2030年度に2013年度比で温室効果ガス46%削減という目標を掲げています。この目標を実現するための施策の一つとして、2023年度から補助金を活用してCCSのモデル事業を推進する取り組みがスタートしました。2030年度までのCO2貯留開始を目指し、現在までにJOGMECから九つの事業が「先進的CCS事業」に選定されています。当社はこのうち5事業7案件に携わっており、国内ではダントツの実績です。5事業7案件を横断的に捉えても、CCSバリューチェーンでこれほど広範囲の業務に関わっているのは当社だけです。

――JOGMECの先進的CCS事業において、当社はFS※1やFEED※2といった業務を幅広く手掛けています。これらの業務が果たす役割について教えてください。

特にLNGプラント建設のような投資額の大きな案件では、想定外の小さなぶれが億単位の損失につながってしまうリスクがあるため、FSやFEEDを設計・調達・建設(EPC)の前に実施します。CCSの場合も、グローバルレベルで見てもまだまだ先行事例の少ない事業なだけに、計画段階では先の見通しが利かない不透明な部分が大きく、FSやFEEDをしっかり実施しておく必要があります。

  1. FS(Feasibility Study):事業可能性検討
  2. FEED(Front End Engineering Design):基本設計を通して技術的課題や概略費用などを検討

JOGMEC選定事業における千代田化工建設の役割

――国が認定するモデル事業において当社が大きな役割を果たしているのは、パートナー事業者からの信頼・期待の表れでもあると思います。その理由はどこにあるのでしょうか。

まずEPCを一貫して手掛けてきた経験が豊富にあり、プロジェクト全体を見渡して最適な判断ができるのが信頼を獲得できている理由ではないかと考えています。また技術面において当社には、LNGプラント建設においてCO2の分離・回収を手掛けてきた実績があります。もともと、ガス田から採掘される天然ガスにはCO2などの酸性ガスが含まれているため酸性ガスの除去・処理が必要であり、それら設備の設計や建設を数多く手掛けてきました。加えてより環境負荷の低いLNGをお届けするため、カタールや米国テキサス州のLNGプラント建設において、CO2の大気への放出をさらに低減するための分離・回収設備やプラントの電動化を進めた設備を実装し、「Cleaner LNG」として提供してきました。これらの経験で培ってきた知見はCCSを推進する上で大きな強みとなり、事業パートナーの皆さまからご期待いただく理由にもなっていると思います。

――海外での取り組みについても教えてください。

海外でも着実に実績を重ねています。最近の主な取り組みとして、2025年に豪州の大手石油ガス開発会社からCO2回収から輸送、貯留までのバリューチェーン構築に関するFS業務を受注しました。

事業者の「かなえたい」に寄り添い、豊富なアイデアで課題解決に導く

――長年にわたって蓄積してきた経験値が、CCSという新たな分野でも力を発揮する礎となっていることがよく分かりました。最後に、玉川部長の事業にかける思いをお聞かせください。

もともとはプロセス設計エンジニアとしてプラントの構成を考える立場でしたが、現在は部長として、また技術営業的な立場でさまざまな事業者と接する中で、当社パーパス「社会の“かなえたい”を共創(エンジニアリング)する」が持つ言葉の重みを大事にしています。われわれエンジニアリング会社には、事業者の「かなえたい」を実現するためのアイデアが豊富にあります。事業者の幅広いニーズに合わせて最適なソリューションを提示できることは当社の大きな強みであると同時に、私自身が一人のエンジニアとして大きなやりがいを感じる点でもあります。
事業者のご要望を具体的な提案に落とし込み、事業者の「かなえたい」という思いが形になるまで寄り添い伴走することがわれわれの使命です。この地道な取り組みこそが、当社がCCS事業で国内をリードするポジションを築き上げた原動力であると自負しています。
脱炭素関連の事業は利益を生み出しにくいにもかかわらず多大なコストがかかるため、社会実装のハードルが高いという現実がありますが、社会課題であるカーボンニュートラルの実現に向けてCCSの取り組みが必要とされることには変わりありません。エンジニアリングの力で、ぜひともこの壁を突破したいですね。