先進的な電力マネジメント「VPP/DR」で脱炭素社会を切り拓く

2025年3月

キーワード:

VPP/DR

再生可能エネルギー

地域分散エネルギー供給

事業共創

脱炭素社会を実現するためには、再生可能エネルギーの普及・拡大が欠かせません。しかし、再生可能エネルギーは天候などの影響で発電量が変動しやすく、電力供給が不安定になる課題があります。この課題を解決するため、当社は創業以来培ってきたプラントエンジニアリングの知見を活かし、社外パートナーとの共創を通じて新たな事業「VPP/DR」(Virtual Power Plant / Demand Response)を展開。2025年4月より、株式会社日本海水との共創がスタートしました。事業の最前線で課題解決に挑むメンバーに話を聞きました。

CHIYODA CORPORATION

事業共創部 エネルギーマネジメント事業セクション
セクションリーダー

赤星 陽

事業共創部 エネルギーマネジメント事業セクション
事業推進グループ グループリーダー

鍋田 武頼

事業共創部 エネルギーマネジメント事業セクション
事業推進グループ

大滝 裕太

社会課題である電力の需給バランス調整に貢献

──「VPP/DR」について、なじみの薄い方も多いと思います。どのようなものか、教えてください。

赤星

脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの普及・拡大が重要なテーマであることは皆さんご承知の通りです。しかし、太陽光発電や風力発電は、天候状況によって発電量が左右されるため、電力の需給バランスを維持することは簡単ではありません。このバランスが崩れると、設備の故障や停電が発生し、日常生活に大きな影響を及ぼす危険性もあります。その解決策として、いま世界で注目されているのが、「VPP/DR」と呼ばれる電力マネジメント手法です。

これは、企業や工場などの需要家が保有する生産設備や発電設備、蓄電池などのエネルギーリソースを束ね、稼働を調整することで、電力の需給バランスに貢献する仕組みです。例えば、再生可能エネルギーの供給が限定的な状況下で地域全体の電力需要が高まった際に、生産設備の消費電力を抑えてもらったり、あるいは発電設備を保有していれば電気を作ってもらったりすることで、需要と供給のバランスを維持することに貢献します。

また、再生可能エネルギーの普及・拡大が進む一方で、老朽化等の理由で火力発電所の退役が進んでいることも見逃せません。火力発電所は電気を作るという役割に加え、需給のバランスに応じて柔軟に発電量を調整するという“電力システムの調整役”を担って来ましたが、この退役が進むと、代替策としてのVPP/DRへの期待が益々高まると考えています。

鍋田

VPP/DRは、再生可能エネルギーの普及で世界をリードする欧州で先行しており、北米やオセアニア地域でも市場が拡大しています。2040年に再生可能エネルギーを主要電源とするシナリオを掲げる日本政府も、VPP/DRのメリットに着目し、需要家の生産設備を活用・制御して生み出した「電力の余力」を、地域全体の需給バランスを維持するための「調整力」として取引する需給調整市場が、2021年に開設されました。

赤星

需給調整市場では、一般送配電事業者が需給バランスに必要な調整力を提示し、これに対して応札が行われます。調整力を経済価値に変える仕組みが整ったことで、今後は電力の調整に協力する企業や工場が増え、より再生可能エネルギーを導入しやすい環境整備が進むものと期待されています。当社としても、社会課題である脱炭素社会の実現に貢献するため、本格的な取り組みを開始しました。事業モデルとしては、調整力を市場取引を通じて経済価値に換え、伴走する事業会社とその経済価値をシェアする「プロフィットシェアリング」で事業を展開しています。

VPP/DR事業モデル

パートナーとして伴走し、電力の余力を引き出す

──VPP/DR事業では、日本海水さんのパートナーとなり両社の共創がスタートしました。

大滝

日本海水さんの赤穂工場では、本業のお塩を製造する工程で、自家発電設備のコージェネレーション設備を活用し、発電と同時に蒸気も作っています。私たちは日本海水さんに伴走するValuable Partnerとして、工場全体のエネルギー・設備の使い方を把握し、通常の事業活動に支障を来さないよう配慮しながら、電気と蒸気の供給バランスを考えた最適な設備稼働を提案するとともに、「電力の余力=調整力」を生み出すための設備制御方法の策定などの支援を行っています。

──パートナーである日本海水さんにとって、どのようなメリットが考えられますか。

大滝

まず、電力の新たな活用方法を得ることによって、新しい収益源を継続的に確保できること、さらに赤穂工場がある関西エリアの電力系統の安定化に寄与することで地域に貢献できること。主にこの二つのメリットが考えられます。現状は、需給調整市場での取引が主体ですが、今後は他市場への参入も視野に入れています。どの電力市場で取引すれば最も高い経済価値が得られるか、日本海水さんと協議を重ね、最適な選択を提案したいと考えています。

新たな挑戦を支えてくれる、心強いパートナー

需給調整市場への多様な電源の参入は、電力の安定供給と電気料金の平準化に貢献する重要な取り組みです。

今回、事業パートナーとして千代田化工建設を選定したのは、その確かな技術力と提案力に他なりません。
弊社は2基のバイオマス発電所に加え、2基のガスタービン発電設備を保有しております。これらのガスタービン発電設備は、普段は構内の電力需要を満たすために運用しておりますが、需給調整市場への参加時には、構内需要を超える余剰電力を活用して調整力を供出しています。

千代田化工建設には、ガスタービン発電設備の出力特性や構内電力の使用傾向を詳細に確認いただき、「電力の余力=調整力」を最大限引き出すための最適な発電機出力の組み合わせを提案いただきました。その内容は当社の期待を上回るものであり、極めて実践的かつ的確なものでした。

また、不明点や懸念点が生じた際にも、迅速かつ丁寧にフォローしていただき、大変助かりました。さらに、市場制度の理解から実務オペレーションの構築に至るまで、きめ細やかで的確な支援をいただいたことで、スムーズな市場参入を実現することができました。

本事業は、弊社にとって新たな挑戦であり、社内でも高い関心を集めています。挑戦には、不安や迷いがつきものですが、そんな時にも、そっと伴走し、支えてくれる千代田化工建設の存在は心強く、まさに信頼できるパートナーだと常に感じています。

需給調整市場では、需給バランス変動の変動特性に応じて、多様な種類の調整力が取引されています。今後は、千代田化工建設の知見と弊社の電源運用ノウハウを掛け合わせ、取引の幅を広げながら新たな価値創出に挑戦してまいります。
持続可能なエネルギー社会の実現に向けて、これからも共に歩んでいきましょう。

株式会社日本海水

電力事業部
発電部 発電グループ

請川 瑞紗 様

プラントエンジニアリングの知見・ノウハウが差別化の決め手

──本事業において、当社が発揮できる強みについて聞かせてください。

鍋田

当社がVPP/DR事業における役割を果たす上で、国内外のプラント建設などで培ったプロセス設計の知見、制御設計技術、電気工事のノウハウを駆使して、電力の調整力を生み出すための最適な設備稼働を提案できる点が、私たちの強みです。伴走する事業会社の状況に応じたきめ細かな提案ができるよう、社内の複数の部署が共創して対応に当たっています。

赤星

現在、国内で競合する企業は100社以上ありますが、特にプロセス・制御エンジニアリングの分野では、私たちが一歩リードしていると自負しています。本事業の価値の源泉である「電力の余力」を生み出すには、生産活動全体のプロセスを正確に把握して、どこに余力や最適化の余地があるのかを的確に見極め、事業活動に支障を来さず制御を行うノウハウが不可欠です。これこそ、当社が最も得意とする領域です。

鍋田

事業に関わるさまざまなパートナーを巻き込み、束ねながら、事業を成功に導くプロジェクトマネジメント力も、当社の大きな強みです。当社は、世界で先進的な電力市場がある、アイルランド・英国・米国・オーストラリアなどでVPP/DR事業を展開し、数百の設備で実績を有するアイルランドのGridBeyond社と日本での事業展開で提携し、同社のシステムを活用しています。各パートナーと連携を密にし、技術力・知見を掛け合わせて価値を最大限に引き出せるように、引き続き取り組んでいきます。

「オール千代田」で万全な対応を

──現状の課題認識について教えてください。

大滝

VPP/DR事業は、化学・金属・食品をはじめターゲットとなる業界が多岐にわたることから、事業としてのポテンシャルは期待できると思います。ただ、これまで当社があまり接点のなかった業界では、当社の認知度がまだ低く、EPCやLNGのイメージが強いためか、「電力事業もやっているんですね」と驚かれることも少なくありません。当社のブランド力を活かした営業がしづらいことに課題を感じています。

赤星

確かに、これまでEPC事業を生業としてきた当社が、このビジネスに取り組んでいることへの認知度はまだそれほど高くはありません。事業パートナーとなるメリットを、分かりやすく丁寧にお伝えし、賛同を得ることが何より重要です。この状況は社内も同様で、認知度を高めるために社内広報にも注力し、事業に協力してくれる仲間をもっと増やしていきたいですね。

鍋田

同感です。事業を進める上では、一から作り上げなければいけないことも多く、例えば法務部と相談しながら契約書を作成したり、会計方法について主計部と検討を重ねたりと、さまざまな部署に協力してもらいました。

協力してくれる社内の仲間をさらに増やし、「オール千代田」で万全の対応を図っていきたいと思います。

社会課題解決の原動力はチームワークにあり

──最後に、本事業にかける皆さんの熱い思いを聞かせてください。

大滝

拡大フェーズにあるため、新規パートナーへの伴走を目指す営業活動に集中していましたが、これからは並行して、既存パートナーへも価値を提供し続けられるよう、しっかり寄り添っていきます。そうして実績を積み重ね、社内外に広く認知される事業に育てていきたいと思います。

鍋田

VPP/DRは、脱炭素社会の実現を目指す上で欠かせない取り組みで、その推進に携われることに、大きなやりがいを感じています。市場拡大が見込まれるデータセンターや水電解といった、大規模な電力を必要とする事業とも非常に親和性が高いので、社内の横連携を一層強化し、パートナーにとってさらなる価値創出につながるトータルソリューションを提案していきたいですね。

赤星

VPP/DRは、従来の大規模発電所(集中型電源)に依存したエネルギー供給システムを見直し、需要家側が保有するエネルギーリソース(分散型電源)を電力システムに有効活用する仕組みです。電力の可視化や制御という比較的小規模の投資で、かつ速いスピード感を持って社会課題の解決に貢献できる画期的な取り組みだと思います。社内的に見ても、当社が培ってきたプラントエンジニアリングの知見を新たなチャレンジに活かせる、またとないチャンスです。当社が「経営計画2025(自己変革~かなえたい未来へ~)」で重点取り組みとして掲げる「事業共創の拡充」に向けたNon-EPC事業の柱の一つとして、経営の安定化と会社の持続的な成長にもつながると考えています。

振り返ると、新規事業であるが故に、想定外の壁に何度も直面しました。そのたびに、トップダウンではなくチームメンバーで一緒に知恵を出し合い、解決策を見つけて前進していく。私自身、このチームワークの楽しさを実感しています。これからもメンバー一人ひとりが成長を続けながら、チーム一丸となって社会課題の解決に取り組んでいきます。