
当社グループはこれまで長年にわたり「エネルギーと環境の調和」という経営理念を掲げ、持続的な社会の実現に貢献する事業活動を行ってきました。
エネルギー以外の分野にも事業拡大を進める今、改めて当社グループの存在意義を見つめ直し、2023年8月に新たなパーパス「社会の“かなえたい”を
共創
する」を策定しました。
新たなパーパスのもと、当社グループが目指す“かなえたい”姿やその実現に向けて取り組むべきことについて、若手・中堅社員が当社グループ社外取締役の救仁郷氏と意見を交わしました。

社外取締役
救仁郷 豊

電力・エネルギーシステム
プロジェクト部
片倉 圭

技術本部 設計安全・
防消火・環境部
仙名 里江

技術開発部
小谷 唯

O&M-Xソリューション
事業部
藤井 渉

ライフサイエンス
プロジェクト部
西岡 徹

バリューイノベーション
推進部
瀧本 和宏
はじめに

救仁郷新たなパーパスで掲げる「
共創
」とは、当社グループ社員の皆さんと顧客をはじめ、共同でプロジェクトを遂行するパートナー企業や株主といった様々なステークホルダーが一体となって価値を創り上げるという意味だと思います。エネルギーインフラ企業出身である私は当社グループとは様々なステークホルダーの立場で関わってきましたが、特に顧客およびパートナーとしてLNGプラントの建設プロジェクトに携わった際には、顧客からの難しい依頼を実現し、未知の設備を作り上げる技術力や、巨大なプロジェクトを仕切り、計画通りに実行していく遂行力を強く感じました。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けてエネルギーの転換期の真っ只中である今、技術力や遂行力を強みとするエンジニアリング会社として、当社グループの果たす役割は非常に大きいと感じていますし、私自身、当社グループが創っていく新しい未来に期待しています。また、当社グループが「2030年のありたい姿」として掲げる事業ポートフォリオの革新に向けて、エネルギー分野以外での“かなえたい”の共創にも期待しています。本日は、若手・中堅社員の皆さんに改めて当社グループの存在意義についてお伺いするとともに、皆さんが描く“かなえたい”姿、その実現に向けた取り組みや当社グループの強み、課題などを幅広くお話ししていただきたいと思います。
技術力と遂行力を発揮してスピード感を持った社会課題の解決を目指す

仙名専門知識による技術力とプロジェクト遂行力が当社グループの一番の強みであり、顧客からの要求を満たす高品質で高い付加価値を提供する姿勢は、顧客や社会に安心と信頼をもたらす当社グループの存在意義だと思っています。多くの分野において専門知識を持つ人財が豊富にいることはもちろん、技術力向上のための社内や社外に向けた発表の場も設けられています。技術力に関しては顧客から特に高い評価を得ていますし、社外から見ても技術力が高い会社として認識されていると感じます。技術本部などで技術を磨いてからプロジェクトマネジメントに異動する社員も多数いるため、技術力とプロジェクト遂行力の両方を持ち合わせている人財が多くいます。
近年、社会情勢が目まぐるしく変化し、社会、経済、政治など当社グループを取り巻く事業環境の不確実性が増していることを考えると、私たちエンジニアリング会社も一層複雑で困難な課題に立ち向かわなくてはならなくなると思っています。社会の変化の速度に合わせるという意味では、これまで当社グループが主軸としてきたLNGプラント建設のように何年にもわたる大型プロジェクトではなく、近年増やしている中小型案件のように、中小規模のプラントを短期間で完工するような、小回りの利くサービスの提供もあるのではないかと考えています。もちろん持続可能な社会の実現に向けては、年月をかけた研究や開発を並行して進めていく必要はありますが、対顧客や対社会を考えると、モノやサービスを世間に提供するスピードをもっと上げる必要があるのではないでしょうか。当社グループの強みである技術力と遂行力を活用するとともに、他社との協業や国際的な協力により、技術や知見を企業や国境を越えて共有し、共創することで、あらゆる分野の社会課題に対して、スピード感を持って解決策を提供していきたいです。
イノベーションを推進し、多様化する社会の“かなえたい”を実現していく

瀧本これまでは経済的な成長が主な社会の“かなえたい”であったのに対し、現在ではSDGsに代表されるような、様々な視点からの“かなえたい”が存在することを実感し、今後さらに多様化すると見ています。また今後は、過去と比較にならないほどの劇的な変化が社会に起こるのではないかと予測しています。他社との協業というお話が出ましたが、私の所属するバリューイノベーション推進部では、価値観が多様化し、劇的な変化を迎えるであろう未来の社会においても、あらゆる“かなえたい”に対応するため、オープンイノベーションを推進しています。具体的には、スタートアップ企業との協業や社内ビジネスコンテストを通じた新たなアイデアの掘り起こしを行い、社会課題解決に資する新規事業の早期創出を目指しています。さらに、収益力を強化できるような、新たなビジネスモデルの創出にも挑戦したいと考えています。救仁郷さんや仙名さんがおっしゃる通り、当社グループは顧客から技術力や遂行力を評価していただくことが多いですが、十分な利益が確保できてこそだと思うので、オープンイノベーションを通じて新たなビジネスモデルを創出し、変化の激しい社会においても揺らぐことなく、当社グループが持つ価値を提供できるような基盤構築の一端を担いたいと思っています。
ただし、新規事業やビジネスモデルの創出は、新しい概念を適用すれば済むというような単純なことでは決してなく、実績の積み重ねに立脚し、検証・裏付けを行う必要があります。私は、新しい発想が必要なことはもちろん、長年の技術の積み重ねこそがイノベーションを成し得るのではないかと考えています。エンジニアリング会社は、その経験や知見、あるいはそれらを持つ人財を無形資産として保有していることが強みであり、この強みを強化し、さらにイノベーションを加速させるため、今後はこれらの無形資産をいかに効率的に活用するかという点についても、新たな技術を用いて検討していかなくてはならないと考えています。
自らテーマを提示し、実現に向けたプロジェクトをリードする

西岡エンジニアリング会社の存在意義は、様々な得意分野を持つ専門会社の技術を公平な視点で評価し、プロジェクトの内容に最適な技術を持つ企業を選定し、柔軟にチームを組織できる点にあると思います。特定の技術を持たないエンジニアリング会社だからこそ持てる視点であり、多種多様な企業を巻き込むことができる力は大きな強みだと思っています。
今後は、脱炭素やエネルギー転換などのエネルギー分野だけでなく、超高齢社会や国内人口の減少、世界人口の増加、食糧危機など、あらゆる分野における課題解決に向けて、既存分野のみならず、新たな分野においてもソリューションの構築やその実現に向けたプロジェクトをリードしていく企業でありたいと思っています。ライフサイエンスプロジェクト部では現在、昆虫食や高分子医薬品といった新たな分野での取り組みを始めていますが、顧客が求める予算や納期といったプラント建設に対する要求に応えるためのEPC業務が多いのが現状です。今後も顧客が求めるプラントを建設するという使命は果たしつつ、DXやAI技術の駆使によって今より少ない人員でEPC業務を遂行することで、新たな分野に注力できる体制を整えていかなければならないと考えています。新たな分野では、顧客の要望に応えるだけでなく、自らが2050年に目指すべき目標や取り組むべき課題などのテーマを決め、社会や顧客に発信することに挑戦したいです。例えば、医療分野では、未だ有効な治療方法のない疾患に対する有効な治療法の普及という目標を設定し、その目標に対してどのようにアプローチしていくのかを提案し、様々な企業を巻き込みながら目標達成までリードすることで社会の課題を解決していきたいと思っています。当社グループの強みである技術を公平に見極める力と多種多様な企業をチームに組み込める力を活かし、自らが設定した目標の実現や課題解決に向けたプロジェクトを主導していきたいと考えています。
救仁郷「社会の“かなえたい”を
共創
する」というパーパスには2つの側面があると思います。1つ目は、社会が“かなえたい”ことを実現する手段を共創することであり、これは当社グループが長年にわたり実績を積んできた最も得意とする分野であるとともに、社会からの期待も大きい分野です。2つ目は、社会が“かなえたい”姿そのものを共創することです。西岡さんが目指しているのはまさにこれですね。社会のニーズに応えていくことはもちろん重要ですが、未来のビジョンが明確に描けている企業が圧倒的に少ない今、当社グループが先頭を切って社会が“かなえたい”姿を提示し、エンジニアリング会社として技術やソリューションを提供することで実現に向けた道を自ら切り開いていくことこそが、当社グループの存在価値ではないでしょうか。
また、瀧本さんがおっしゃる通り、今後社会が大きく変わっていく可能性があります。実際に私の経験で言えば、暮らしを飛躍的に向上させ、新しい生活様式を生み出した冷蔵庫、洗濯機、電話、テレビ、エアコン、自動車といったモノの普及には10年もかかっていません。未来に向けて“かなえたい”姿を考える上では、社会のあらゆる物事が根本的に変わっているという前提に立った全く新しい発想が必要になるでしょう。不確実性の高い社会において未来のビジョンを描くことは大変難しい挑戦ではありますが、あらゆる分野における技術や知見、経験を有する優秀な人財を持つ当社グループだからこそ、社会が“かなえたい”姿を提示し、顧客や社会を先導することでパーパスを実現してほしいと思います。
デジタル技術を駆使し、
既存設備の効率的な活用に最適なソリューションを提供する

藤井社会情勢や外部環境が大きく変わる中で、ビジネスオーナー単独では遂行困難なプロジェクトや操業上の課題に対して、最適な設備やソリューションを提供することが、当社グループの存在意義であると思います。社会の“かなえたい”は刻々と変化しており、時代によって必要なニーズに対して、当社グループはエンジニアリングを通して社会実装することを求められているのではないでしょうか。その点で、多方面におけるエンジニアの知見や多数の実績を保持していることや、ビジネスオーナーからの信頼を得られていることは、当社グループの強みであると思います。
今後、日本や主要国における人口減少の一方で世界の人口増加が見込まれる中、設備運転・保全の市場においては、国内市場の縮小による生産能力の減少や脱炭素分野への重点的なリソース配置による人財不足に対応するため、既存設備の効率的な操業が求められると想定しています。未だ既存のエネルギーに代わる新たなエネルギーが確立されていない状況であるため、既存の設備の効率的な活用は非常に重要だと考えています。そういった顧客の課題に対し、O&M-Xソリューション事業部では、当社グループが培ってきたエンジニアリング能力とデジタル技術に加えて、千代田エクスワンエンジニアリング(株)のフィジカルなサービスを駆使し、設備運転の最適化や保全業務を支援するソリューションの提供に注力しています。現在は国内市場における課題が多いことから国内でのサービス提供が主ですが、徐々に海外への展開も進めて競争力を磨くとともに、EPC業務から連続してO&Mサービスの提供につなげるなど、これまでの枠組みを超えたビジネスの展開を目指したいと考えています。EPC業務との相乗効果を生み出すことのできるソリューションを企画提案し、事業化に目途を付けることを私自身の使命として取り組んでいきたいと思います。
社会実装力を発揮し、
「エネルギーと環境の調和」がとれた社会を実現する

小谷私の考える当社グループの存在意義は社会実装力です。私の所属する技術開発部では、顧客企業やパートナー企業の持つ有望な技術シーズを社会実装できる段階までスケールアップする作業を担っていますが、これはまさに顧客やパートナー企業との「共創」と言えます。パートナー企業が持つ幅広い分野の素晴らしい技術と社会実装をつなぐ架け橋として、技術を世に出す役割を担うエンジニアリング会社は大きな存在価値を持つと思います。またその中において、数多くの社会実装の実績を持ち、優れた技術シーズが多い日本を拠点にしながらも、海外プロジェクト経験が豊富であることは、当社グループ独自の強みだと思います。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、これらの独自の強みを活かし、当社グループが古くから掲げてきた「エネルギーと環境の調和」がとれた社会の実現を目指したいと考えています。私は現在CCUS*1の技術開発に取り組んでおり、この技術が社会実装されれば、CO2の排出削減だけでなく、CO2を資源として再利用することも可能となります。CCUSは、環境を犠牲にして手早くエネルギーを利用してきた社会から、「エネルギーと環境の調和」がとれた社会への転換に向けた大きな一歩になると確信しています。今後は、大気中からCO2を効率的に取り出す技術であるDAC(Direct Air Capture)など、より難易度が高いNETs*2の技術探索・評価にも注力し、社会実装に向けた取り組みを進めていきたいと考えています。
一方で、真に「エネルギーと環境の調和」を実現するには、CO2削減だけでなく、エネルギーの新しい使い方の模索も重要となります。熱回収や個別機器の効率改善といった従来の省エネルギーとは抜本的に異なるエネルギーの使い方を、実現までのプロセスも併せて提唱し、カーボンニュートラル実現の前線に立つ企業になりたいと思っています。
- *1 Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略。二酸化炭素回収・貯留・有効利用
- *2 Negative Emissions Technologiesの略。大気中のCO2を回収し、貯留・固定化することで大気中のCO2を除去する技術
日本の洋上風力発電の発展に貢献し、
サステナブルな社会を実現する

片倉私もエネルギーと環境を中心としてサステナブルな社会を実現したいと考えます。私が携わる洋上風力発電は、大量導入やコストの低減、経済波及効果が期待され、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた再生可能エネルギーの主力電源化の切り札とされています。黎明期と言える日本の洋上風力発電において、国が掲げる「2030年までに10GWの洋上風力発電を導入する」という目標を達成するには、先行する欧州の技術やノウハウ、サプライチェーンを導入し、日本特有の環境条件や法規制に適応させることが重要です。日本に軸足を置きながらも豊富な海外プロジェクト経験を持ち、欧州をはじめとした海外企業との協業を得意とする当社グループが参画することで、欧州技術の円滑な導入の一助になると考えています。将来的には国内のリソースで対応できる範囲を拡大していくことが国策の観点から理想ではありますが、専門分野の人財を集めるのが難しく、事業者だけで賄えない部分も大きいのが実情です。顧客との対話の中でも、エンジニアリング会社の持つリソースや知見に対するニーズの高さを実感しています。当社グループはこれまでも、工事用の船や重機などといった資産を持たず、人財を適材適所に配置し、プロジェクトマネジメント能力やエンジニアリング能力といった顧客が持たない価値を提供することで対価をいただいてきました。資産を持たないがゆえに、資産の活用といった観点に縛られることなく、柔軟なリソースの提供が可能になります。今後、社会の急速な変化に適応していく中においても、事業者だけでは賄えない、対応しきれない場面は必ずあると思うので、状況に合った価値を提供することで当社グループの存在意義を示していきたいと思います。現在、電力・エネルギーシステムプロジェクト部では、Pre-FEED*3などのソフト業務を中心としたサービスを提供していますが、洋上風力発電を取り巻く環境の将来的な変化も視野に入れながら、業務の幅を広げ、日本の洋上風力発電の発展に貢献していきたいと考えています。
- *3 Front End Engineering Designの略
救仁郷現在、気候変動対策のほとんどは、生産や供給に焦点を当てた供給側のCO2排出量削減の取り組みです。しかし、カーボンニュートラルは供給側だけで実現できるものではありません。利用者の行動や消費習慣に焦点を当てるような、需要側の取り組みも同様に重要と言えるでしょう。当社グループはエネルギー供給側のプラントやプロセスについての高度な知見を有していますが、同時に需要側についても高度な技術と知識を持っているはずです。小谷さんがおっしゃった、エネルギーの新しい使い方の模索については、需要側の視点も取り入れながらぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います。これはエネルギー以外の分野でも同様のことが言えます。例えば、自動車業界では電動化や自動運転、シェアリングなど供給側の取り組みが進んでいますが、需要側である人の移動の在り方や物流の在り方も根本的に変えていく必要があるでしょう。さらには、鉱物資源や食料も現在の利用形態を大きく変えていかなければならないはずです。
カーボンニュートラルの実現には、供給側と需要側が「共創」することが必要であり、私たちエンジニアリング会社は、エネルギーの在り方や使い方をはじめとして、人の移動や物流、資源、食料などあらゆる分野において「共創」しながら、課題に対する最適解を導く技術と知恵を社会に提供していかなければなりません。この大きな使命からバックキャストして、当社グループとして何をすべきか、何ができるかを事業に結び付けていく必要があるのではないでしょうか。
皆さんが「社会の“かなえたい”を
共創
する」範囲は今後大きく広がっていきます。その流れをしっかりと掴み成長していくために、折に触れて今回議論した「社会の“かなえたい”姿」を振り返っていただきたいと思います。
