
「エネルギーと環境の調和」を経営理念に掲げ、創業以来グローバルな社会課題の解決に取り組んできた当社グループにとって、気候変動は重要な経営課題の一つであり、その解決に向けた脱炭素・循環型社会の実現は、当社グループの使命といえます。脱炭素・循環型社会の実現のために当社グループが貢献できることや、描く未来について、若手・中堅社員が当社グループサステナビリティ委員会のアドバイザーである佐藤氏と意見を交わしました。

サステナビリティアドバイザー
株式会社国際協力銀行(JBIC)地球環境アドバイザー /
名古屋大学院環境学研究科 招へい教授
佐藤 勉

エネルギーP事業本部
NFEチーム
田中 洋平

エネルギーP事業本部
プロジェクトGX協創部
関口 博之

地球環境P事業本部
洋上風力Pセクション
丹下 龍

FB本部
事業創造部
川井 英司

FB本部
デジタルプロダクト部
古市 和也

業務本部
調達部
後藤 枝里子
はじめに

佐藤近年、世界中で温暖化の影響と考えられる熱波や旱ばつ、それに伴う山火事などの被害、激甚化する洪水や台風などの自然災害が頻発しており、気候変動が人類へ深刻な影響をもたらすことは、もはや疑いようのない事実です。
こうした課題に対応するため、国際社会は2015年に締結されたパリ協定で、産業革命以降の世界の平均気温の上昇を「2℃より十分に低く、あるいは1.5℃に抑える努力」を進めるべく、今世紀中に温室効果ガス排出の実質ゼロを目指すネットゼロ目標を掲げています。日本でも、政府が2050年のカーボンニュートラル実現を目標に定めるなど、脱炭素の動きは世界中で加速しています。国際連合が進めるネットゼロへの取り組みである「Race to Zero Campaign」には、世界各国の都市のほか、総数8,000を超える民間企業や機関投資家、高等教育機関が参加するなど民間の動きが活発になる中、投融資先のネットゼロ化を掲げる大手金融機関が増加するなど、脱炭素の動きは金融面でも加速しています。
脱炭素により気温の上昇を抑えることは喫緊の課題ですが、私たちの社会経済活動に必要不可欠なエネルギーを安定供給し続けるということを大前提とした上で脱炭素を進めていくことが必要となります。これは決して簡単なことではないと思いますが、こういった背景を踏まえ、脱炭素・循環型社会の実現、およびエネルギーの安定供給に向けて当社グループができることや目指す姿について若手・中堅社員の皆さんにお話ししてもらいたいと思います。
LNGの活用により安定供給と脱炭素の両立を実現する

田中私は、安定供給と脱炭素のどちらか一方ということではなく、双方を考慮し、かつ短中期的視点と長期的視点を持って最適解を見つけることが重要だと考えています。最終的に目指すべきはエネルギーそのものの脱炭素化ということは間違いありませんが、再生可能エネルギーだけで需要をすべて賄うことは難しいのが現状です。また、再生可能エネルギーや水素・アンモニアといったクリーンエネルギーは社会実装化や技術開発、インフラ整備に膨大な時間と費用がかかります。そのため、短中期的には従来のエネルギーを活用して安定供給を保ちながら、長期的な視点では従来のエネルギーから排出されるCO2の削減や排出されたCO2の吸収・固定を進めるとともに、再生可能エネルギーやクリーンエネルギーへの転換を進めていくことが現実的だと考えています。
その点で、当社グループの主力事業であるLNGは、環境負荷が比較的低く、安定供給が可能なため、脱炭素化に向けたトランジションエネルギーとして非常に重要なエネルギーだと思います。まずは私が現在携わっているカタールのLNGプロジェクトを納期通りに完工し、プラントを稼働させることがエネルギーの安定供給の貢献につながると考えています。今後は、プラント建設時のCO2排出量の削減や、燃焼により排出されるCO2削減、排出されたCO2の回収・再利用に注力することで、脱炭素の実現に貢献していきたいと考えています。
脱炭素への流れは、会社としてのサステナビリティ実現のキーポイントでもあるので、遂行中のプロジェクトでしっかり利益を出して財務的な体力をつけることで、新技術を検討している皆さんが心置きなくチャレンジできるような状態を作っていきたいと思っています。
洋上風力発電で再生可能エネルギーへの転換に貢献する

丹下私が入社した2009年は、当社グループの再生可能エネルギー発電関連事業はまだプロジェクト数が少なかったのですが、この十数年で世の中が脱炭素化へ大きくシフトする中で、当社グループも太陽光発電を皮切りに太陽熱発電、バイオマス発電、蓄電システム、洋上風力発電など再生可能エネルギー発電・蓄電分野における事業展開を積極的に行ってきました。
洋上風力発電は、再生可能エネルギー主力電源化の切り札として非常に期待されており、国内外の多数の企業が日本各地で事業開発を計画しています。しかし、事業化検討から運転開始まで10年近くの開発期間を要するため、再生可能エネルギーの比重を高めていくには長期的な取り組みが必要です。
日本の洋上風力発電はまだ立ち上がったばかりですが、当社グループは複数の発電事業者からフィージビリティスタディ、基本設計業務や概算積算などを受注し、現在遂行中です。風力以外の主な要素技術が電気や海洋土木分野である洋上風力発電は、プロセスプラントを得意とする当社グループとは親和性が低いように思われるかもしれませんが、当社グループの強みを存分に活かせる分野だと思っています。先行する欧州技術を上手く取り入れつつ、日本特有の環境条件や法規に合わせていくことが重要になりますが、欧州をはじめ海外企業とのパートナリングを得意とする当社グループが間に入ることで、欧州技術を日本へ適応させるための支援ができると考えています。また、案件規模が非常に大きく、高度な設計・施工技術を必要とする洋上風力発電プロジェクトを計画通り進めるためには、当社グループが石油、石油化学、ガス分野で長年培ってきたプロジェクトマネジメント力が大いに役立つと考えています。
顧客との対話の中で、我々エンジニアリング会社への期待を肌で感じていますので、強みを活かしながら日本の洋上風力発電の立ち上げに貢献していきたいと思います。
多面的な検討により、
顧客に最適な脱炭素化ソリューションを提供する

関口私の所属するプロジェクトGX協創部では、脱炭素分野を新たな事業の柱の一つとするべく、海外における新規案件発掘、参入・受注のための戦略策定に取り組んでいます。脱炭素といってもその手段は様々で、それぞれに長所や短所、導入への課題がありますが、それぞれの持つ特徴を理解した上で、導入する業界や企業との相性を考えながら検討する必要があります。また、海外においては、国や地域特性の理解も重要です。例えば、主な燃料としてLNGが利用されている国では、CCS*の導入や、水素・アンモニアなど、よりクリーンな燃料への転換が考えられます。一方で、石炭利用の比重が大きい国であれば、まずは燃料をLNGに転換することが脱炭素化への一歩と考えることもできます。また、太陽光や風力などの自然エネルギー資源の保有量や、脱炭素化の方針・優先順位も国や地域によって異なるため、各国・地域の事情、さらにその土地で事業を営む企業や人々が置かれている状況を理解した上で最適な方法を検討していく必要があります。
一方で、最終的に顧客に対してどのような設備を提案・納入できるかについては、技術力も重要になります。現在、CCS*に関する当社グループの実績や関連技術の調査・整理を行っていますが、その活動を通じて、改めて当社グループが脱炭素に関連する多くの技術を保有していることに気付かされました。今後は、当社グループの持つ多様な技術の価値を脱炭素化という視点から再定義し、お客様への提案を通じて設備や社会全体の脱炭素化に貢献するとともに、新たなビジネスにつなげていきたいと考えています。
- * Carbon dioxide Capture and Storageの略。二酸化炭素回収・貯留
佐藤それぞれの立場でエネルギー分野に携わる皆さんからのお話をお聞きして、私たちが今まさにエネルギートランジションの最中にいることを改めて実感しました。
特にエネルギー生産設備は耐用年数が長期となることから、CO2の排出量削減や回収・再利用の技術を早期に実用化し、既存の設備に実装していくことが大変重要になってくると思います。また、洋上風力発電など、エネルギー転換に向けた準備が着々と進んでいることにも期待しています。エンジニアリング会社としては、保有する技術力をいかに活用していくかが重要になると思いますので、様々な切り口で既存の技術を活用し、新たなチャレンジにつなげてほしいです。
技術力と社会実装力で顧客の脱炭素に貢献する

川井脱炭素や炭素循環の実現に向けた鍵となるCO2の回収・再利用、水素製造、カーボンニュートラル製品を製造する新技術には、4つの課題があると認識しています。一つ目は、不純物を含むものや濃度の低い原料ガスのCO2を効率良く回収すること。二つ目は、変動しやすいグリーン水素を安定化して下流の既存設備に送ること。三つ目は、生成物に含まれる副生物などを効率良く分離し下流の既存設備に送ること。最後は、装置全体を最適化し効率よく低コストで最終製品を製造すること。これらの課題を乗り越える必要がありますが、この課題こそエンジニアリング会社が技術を提供することで解決できると思っています。則ち、変動しやすい原料をうまく吸収し、既存技術と新技術を総合的に公正に評価して、最適な形で組み合わせる技術力、そして経済性の良い製品の製造を社会実装化する事業計画や必要物資の算出など具体的な計画と実行ができる遂行能力が我々エンジニアリング会社の強みだと思います。
加えて、当社グループの独自技術であるSPERA水素や低濃度のCO2を効率よく取り込む固体吸収剤をはじめ、仮想発電所や電力と熱の最適化、CO2とグリーン水素から製造されるパラキシレンやエチレンなどの化学品や次世代燃料製造技術などのプロセス技術とデジタル技術の掛け合わせなど、独自の開発技術だけでなく国内外のパートナーと共同開発している新たな技術が豊富にあり、貢献の可能性はまだまだ多様にあると思います。
既存技術と新技術を最適な形で活用するだけでなく、最終的な社会実装まで遂行する能力を発揮することで、脱炭素や炭素循環に向けて最後まで顧客と伴走していきたいと考えています。
デジタル技術でエネルギーバリューチェーンの
全体最適を図る

古市川井さんからエンジニアリングとデジタル技術の掛け合わせというお話が出ましたが、私もデジタル技術を活用して設備の業務サポートをする上で、当社グループがデジタル技術を活用するからこそ実現できることは多いと感じます。
脱炭素社会への移行に伴い様々なプレイヤーやエネルギーソースが加わってきており、今後エネルギーバリューチェーンはより複雑化し、相互影響も大きくなると見ています。一部で計画外の事象が起きると影響は次々と連鎖するため、スケジュールとコストを見ながら多くの想定リスクを判断する指標を作り、それを基に対策シナリオを準備しなければなりませんが、これはEPC業務で我々が長年体現してきたことに他なりません。これまでプロジェクトの設計や現場で行ってきた要素をエネルギー供給の舞台でも、デジタルを活用して貢献していきたいと考えています。対象設備やエネルギーバリューチェーン全体を見渡しながら、リスクと機会の見極めに加え、レジリエンスの確保も考慮して適時調整しながら全体最適を目指していく。その中でデジタルの果たす役割は、調整や判断につながるデータをリアルタイムで収集・見える化し、ノウハウも加えた指標化や将来を予測することで、すべてのプレイヤーが納得いく形で全体運営を制御する助けになることだと思います。
当社グループはこれまで、産業が変容するたびに最新技術を取り入れて顧客の事業変革をサポートしてきました。脱炭素、炭素循環というフェーズにおいても、必ず貢献できると信じています。顧客に常に寄り添い、一緒に課題を解決し続ける関係を構築するため、コアな課題を発見し、解決手段の提案ができるチーム・人財を創出し続ける仕組み・文化醸成に取り組んでいきたいです。そのために、所属チーム一丸となって、AIやデジタルを中心として、エンジニアリング会社として必要な知見の習得を続けていきます。
輸送効率向上により調達におけるCO2排出量を削減する

後藤私は調達部で調達品の輸送を担当しており、皆さんとは少し違った視点で脱炭素の取り組みをしています。調達品の輸送においては、プロジェクトの日程に影響が出ないように納期を守って安全かつ品質を保持した状態で貨物を現場に届けることが前提となります。輸送に伴うCO2の排出は避けられませんが、輸送効率を上げることで極力減らすことは可能です。単純な話ですが、決められた条件下で一つのコンテナに効率よく物資を詰めるといった工夫によって積載率を上げることはもちろん、同じ出荷地から出る貨物を可能な限りまとめて積むことで輸送回数が減り、船から排出されるCO2の量は削減できます。これはまだ個人的なアイデアですが、設計のタイミングで資機材の大きさや梱包の仕様などについて、プロジェクトチームの皆さんと一緒に検討することができれば、さらなる輸送効率の向上が可能ではないかと考えています。
また、発注から貨物の到着まで非常に多くの関係者と連携を取り、いつ、どこに、何を、どれくらい運ぶかを決める必要があります。それにはタイムリーな情報が必要となるので、デジタルを使った情報収集に取り組むことで輸送効率だけでなく、輸送品質もさらに向上したいと考えています。
今回の座談会は、輸送におけるサステナビリティの取り組みについて改めて考えるきっかけになりました。日々納期に追われていると、つい目先の日程やコストなどにとらわれてしまいがちですが、これまで当社グループが蓄積してきた輸送ノウハウを活用して、今後も自分なりの取り組みをしていきたいと思います。
佐藤今回お話を伺った範囲だけでも、水素、次世代エネルギー、仮想発電所、AIなど、本当に様々な新技術やアプローチがあり、エンジニアリング会社の持つポテンシャルが非常に大きいことがわかります。脱炭素はサプライチェーン全体で取り組んでいくべきことなので、調達段階での脱炭素が進めばより貢献度も上がってくるでしょう。
基本的なことですが、国際的かつ巨大な顧客を相手に信頼される技術や長年の実績を持ち、優れたマネジメント能力によりプロジェクトを確実にやり遂げるということ、これは大変価値のあることです。このような基本を守りながら、環境の変化に対応していかなければいけません。これらの両立、さらに言えば相乗効果を生み出すことで、革新的な価値を社会に提供することを期待しています。脱炭素に向けた新たな事業展開には技術的、または市場的な不確実性が伴いますし、場合によっては政策的な制限もあるでしょう。将来目標から逆算してどのような取り組みを行っていくことが脱炭素への貢献、ひいては当社グループの成長につながるのかを皆さんと一緒に模索し続けていきたいと思います。
