高分子/細胞医薬CDMO、植物バイオファウンドリの社会実装を目指して

2024年10月

キーワード:

医薬

高分子/細胞医薬CDMO

植物バイオファウンドリ

伴走型技術コンサルティング

アカデミアとの共創

当社グループは、「世界中の人々の健やかで豊かな生活の実現」に貢献するために、付加価値の高いバイオ・ライフサイエンス分野のソリューションプロバイダーを目指して、新規事業として高分子/細胞医薬のCDMO(医薬品開発製造受託機関)、バイオファウンドリの取り組みを加速しています。──新たな試みの現在地と目指す未来について、担当者3名が語ります。

CHIYODA CORPORATION

ライフサイエンス事業部
バイオ・医薬技術開発セクション
セクションリーダー
プロジェクトマネージャー

西田 尚子

ライフサイエンス事業部
バイオ・医薬事業セクション
開発支援セクションリーダー
代理

能見 淑子

フロンティアビジネス本部
アソシエイトフェロー

伊藤 弓弦

社会課題の解決に向けた成長戦略として位置付け

──まず、ライフサイエンス分野での新規事業の立ち上げに至るまでの経緯を教えて下さい。

西田

当社グループは長年に亘り、エネルギーインフラ分野を主体に、プラントの設計・調達・建設を一括請負するEPC事業を展開してきました。このEPC事業を強化するとともに、様々な社会課題に対して、エンジニアリングの知見を活かして解決に貢献する新しいシステムやソリューションを提供するために設立されたのが、いま私たちがいるフロンティアビジネス本部です。その施策の一つとして、持続可能な健康社会の実現に貢献するために、成長戦略に位置付けられたのがライフサイエンス分野です。
一方で、当社グループは1963年から医薬分野における施設のEPC事業に取り組んでおり、安定して収益を上げていました。EPCで培った強みと知見を活かして、もっと社会課題の解決に貢献できたらと考えました。

能見

EPCは施設を設計・建設することに加え、施設内に置かれる装置や機器まで考慮して全体最適のデザインを考える事業です。そこまで全部サポートしてこそというのが当社グループの考えで、結果的に新規事業に活かせる知見も培われていたのだと思います。

西田

設計段階からのサポート、例えばお客様が策定した仕様書や設計書をレビューするようなサービスは従来から行っていましたが、最終的にプラントのEPC事業の受注に結びつけばよいというスタンスでした。でもそれはそれで価値があるサービスなので、マネタイズすれば、EPC事業を補完する新しい事業になるのではないかと。

伊藤

ライフサイエンス分野はつくる対象が非常に多様で複雑です。施工の前から課題が山ほど見えてくるので、そこで当社グループの、いわば知識とインテリジェンスが強みになります。

──具体的には、どのような関わり方をイメージされていますか?

能見

製薬会社やベンチャー会社のラボで薬を試作していく段階から関わっていきたい。試作段階では研究用の試薬を買ってきて、装置は使わず手作業で作って……というようなケースは多いのですが、それでは大量生産するときに同じやり方を適用しにくくなります。だから、「今のうちに将来を見据えた製造手段や条件を決めていきましょう」と当社グループからアドバイスします。具体的な取り組みとして、当社グループでは伴走型技術コンサルティングを展開しています。

伊藤

仕様書や設計図をもとに施設をつくるという流れだと、当社グループも他社もやることは大きく変わりません。でも仕様・設計の段階からサポートをはじめるなら、関係者間を的確に橋渡しして、スピーディに施工まで至れる強みが当社グループにはある。

能見

私たち自身が技術・ノウハウを持っていることが大前提です。お客様が何に困っているのか正確に理解したうえで、どういう手段で解決するのかという解を幅広く持てないといけません。

当社グループの伴走型技術コンサルテーション

つくば幹細胞ラボ(TSL)筑波大学共同研究所棟A内

アカデミアとのつながりを活かし、技術を社会実装していく

──共創のパートナーとしてはどのような相手が考えられますか。

能見

私の担当する細胞医薬品では、ベンチャー企業や大学の研究室に協力いただいています。新規の事業で大学と共創関係を築くのは一朝一夕にはいかないのですが、伊藤さんを通じて、筑波大学のネットワークを活用することで実現できたことも多いです。周りの先生方に、当社グループが技術を持っていると話をしていただけたりもして。

伊藤

アカデミアに橋頭保を持っているというのは大きいと思います。そこから得られる情報もありますし。
最先端の技術を学会で仕入れてくる程度ではパートナーとして不足なんです。実際に研究能力を持っていることを示して「あの会社と一緒にやってみたい」と思ってもらわないといけない。ハードルは高いですが、実現できれば非常にフットワークの軽い研究ができる。

──伊藤さんにはどのような経緯で関わっていただくようになったのでしょうか。

伊藤

千代田化工建設との出会いは1990年代にNASAの宇宙プロジェクトに関わっていた時です。若田光一さんが国際宇宙ステーションで細胞培養に取り組んでいたとき、地上側でも同じ実験をしていて、その担当が僕だった。千代田化工建設は宇宙開発・利用技術にも取り組んでおり、国際宇宙ステーションにおける細胞培養や植物生育など、ライフサイエンスを扱う実験装置を開発して提供していたんです。
僕は以前から技術の社会実装に関わる部分を研究したいと思っていたのですが、なかなかそのチャンスに恵まれず、前職の時に、千代田化工建設に相談してみたんです。当社グループがライフサイエンス事業を新たな柱にしようとしていたタイミングでした。
技術は「使ってナンボ」だから、適切なタイミングで、適切なプロセスに、適切な技術を当てはめて、使うところまで考えてくれる会社に行きたかった。そこで、技術に振り回されない会社があるな、と思ったのが決め手でした。

──現在取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。

能見

CDMOとバイオファウンドリが挙げられますが……扱うのが植物であれ、微生物であれ、動物細胞であれ、それを使って何らかモノを作り出すというプロセスをまず押えていこうとしています。

西田

私は植物バイオファウンドリの開発をしているわけですが。この分野は微生物や動物細胞の活用に比べると後発で、産業化に向けた課題を抱えています。その課題の一つが、実際に大量生産できるか確認するための実証基盤が国内にないことなんです。それを私たちが担おうとしていて、ぜひ頼みたいというお客様もすでに何社かいらっしゃいます。

能見

NEDO助成事業「カーボンニュートラル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」に採択された産業技術総合研究所(産総研)、大阪大学、株式会社ニッピとの共同プロジェクトである「植物による高度修飾タンパク質大量生産技術開発」※が、まさに技術のスケールアップを目指すものですよね。開発型OEMのようなことをしている。

西田

そうですね。遺伝子組み換え植物に特定のタンパク質をつくらせて抽出するという技術があって、その量産化に取り組んでいる。直近では当社グループの子安リサーチパークの空き地を利用して、量産化に向けた実証設備を建てようとしています。
もちろん、「設備さえ作っておけば」という姿勢ではサービスが広がりません。技術のポイントや、どこが将来ネックになるかという点を早い段階で見極めて、適切にお客様をサポートできる知識やノウハウの蓄積が不可欠だと思っています。

「植物による高度修飾タンパク質大量生産開発」プロジェクト

<開発内容>

一過性発現系の遺伝子組換え技術を利用した植物による生産プロセスを開発
(実証モデル物質として、翻訳後に様々な細胞内修飾が必要で、構造が複雑な物質を選定している)

  • 2024年度末までに実証プラントを当社グループの子安リサーチパーク内に建設
  • 実証プラントを様々な物質生産のための実証生産基盤「植物バイオファウンドリ」として活用していく予定

──目指すビジネスモデルについてお聞かせください。

伊藤

開発から施工までのプロセス全体を見たとき、どこで止めてもマネタイズできるようにするというイメージですね。

能見

プロセスの入口側では利用する微生物や細胞の種類、出口側では最終的に何を作るか、それらの設定によって辿るべきルートが都度異なるんですよね。だから私たちが技術を持っておいて、お客様の目的にあわせてカスタマイズした提案をする。

西田

これまではお客様側で商用化フェーズに進み、工場を建設するとなった段階で当社グループに声がかかっていたところを、もう少し前の段階から、「千代田化工建設に相談してみよう」と思っていただける状態を目指したい。

社会に貢献する技術の種を継続的に事業化していく、サステナブルな会社であるために

──今後のロードマップや展望について教えていただけますか。

西田

植物バイオファウンドリでは、まずは先ほど挙げたNEDOのプロジェクトに2025年6月まで取り組みます。その後はお客様からお声がけいただいているいくつかの案件を事業化していきます。
2025年中にはめどをつけて、2026年頃から実際にサービスを提供していくことを目指しています。2030年の手前で黒字化するというミッションもあるので。

能見

CDMOは再生医療の細胞医薬品と高分子医薬品の両方を見据えていますが、市場が成熟しているのは高分子医薬品のほうで、再生・細胞医薬品は市場が伸びつつあるところです。いまは将来に向けた仕込みを進めています。

伊藤

黒字化のその先も大事だと思っています。開発の現場には何かの事業になるかもしれない芽はあっても、実際に育つかは別問題です。目の前の事業でもしっかりと収益をあげる傍ら、二の矢、三の矢を次々と仕込んでいくことで、やっとその先の成長につながる。それでこそサステナブルな企業であり社会貢献になるはずです。
常に新しいもの、最も世の中が求めるものに対応していくようなインテリジェンスやケイパビリティを保有して、マネタイズしていくということですね。

──最後に、ライフサイエンス分野で果たしていくべき当社グループのミッションをどうとらえておられるか、それぞれお聞かせください。

能見

医薬品の開発は用途によってさまざまではあるものの、共通した考え方や経験が使える部分が多くあります。このため、プロジェクトごとにその道のプロを集めて、医薬品ごとの特徴を踏まえつつ開発をサポートすれば効率的なんじゃないかと考えることもあって……。この事業が軌道に乗れば、それが本当になりますよね。

伊藤

僕は、お子さんやお年寄りなど、いわゆる「強くない」方々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)を向上するというのが行動理念の中にあります。
小売店で売られている既製服のように、一定の技術成果を広くとどけて、皆がそれで幸せになれるという状態を目指したいんです。大量生産をあらかじめ想定したプロセスをつくることはその意味でも大事だと思っています。

西田

私は千代田プロパーなので、これまでEPC事業に取り組んできたこの会社で、新規事業を、それも私個人が従来関わりのなかった分野で立ち上げる難しさは肌で感じているのですけど。でも、当社グループだからこそできることがあると思っています。伊藤さんもおっしゃいましたが、技術は社会に出て、人の役に立ってこそ。その理念は新規事業でも変わらないと信じて取り組んでいます。

──ライフサイエンス分野に関わらず、社会に貢献する技術を実装していくことがさらなる成長にもつながっていくだろうということですね。本日はありがとうございました。